保健福祉施設で発生したC群ロタウイルスによる集団胃腸炎事例−岡山県

(Vol.26 p 100-101)

わが国においてこれまでに報告されたヒトC群ロタウイルス(Human group C rotavirus、以下CHRV)集団胃腸炎事例は、低年齢層(6〜18歳)における発生がほとんどであり、成人の集団胃腸炎に本ウイルスが関与した例は極めて稀である。今回、2004年12月下旬に県内で発生した成人の集団胃腸炎事例からCHRVが検出されたので、その概要について報告する。

2004(平成16)年12月25日に、県北部の保健福祉施設において胃腸炎症状を訴える者が発生していると所管保健所に通報があった。調査の結果、施設関係者233名(入所者149名および職員84名)のうち入所者16名および職員8名の計24名(年齢:34〜67歳)が、12月22日〜25日にかけて相次いで下痢や嘔吐などの症状を示していることが判明した。経時的にみると、12月22日に入所者1名が下痢症状を訴えたのに続いて、24日には入所者3名および職員2名が、25日には入所者8名および職員3名がそれぞれ胃腸炎を発症し、そのうち3名が入院治療した。その後31日まで、1日あたり1〜3名の患者発生が認められた。なお、施設では同一業者の給食を利用していたが、患者発生が特定の寮のみに集中していたことなどから、給食を介した食中毒の可能性は低いものと判断された。

患者発生状況などから、ウイルス性胃腸炎の可能性が高いと考えられたため、12月27日に発症した入所者2名の第2病日に採取された糞便について、電子顕微鏡(EM)による検索を実施するとともに、時期的な関係からノロウイルス感染を疑い、COG系プライマーを用いたリアルタイムPCR法による検査を行った。その結果、ノロウイルスは検出されなかったものの、2名中1名においてロタウイルス様粒子が観察された()。そこで、A群ロタウイルス検出用イムノクロマト法(ラピッドテスタ ロタ・アデノ、第一化学薬品)およびCHRV検出用逆受身血球凝集反応(RPHA)法(デンカ生研)による検査を行ったところ、EM検索陽性の1名がCHRV陽性(RPHA価32倍)と判定された。さらに糞便よりRNAを抽出し、RT-PCR法によるA群ロタウイルスおよびCHRVの外殻糖蛋白(VP7)遺伝子の検出を試みた結果、両名においてCHRV遺伝子の存在が確認された()。以上の成績から、今回の集団発生がCHRVにより引き起こされたものと推察された。しかしながら、今回検査した例数が限られていたこともあり、感染源および感染経路の特定には至らなかった。

詳細な疫学解析のため、RT-PCR法により増幅されたVP7遺伝子の塩基配列を決定し、比較を行った。その結果、患者2名より検出されたVP7遺伝子の配列は全く同一であり、本事例が単一のウイルスに起因することが示唆された。さらに、既知のCHRV株の配列を加え系統解析を実施したところ、今回検出されたウイルスは、1998年に県内の小学校で発生した集団事例由来株に最も近縁であることが明らかになった。このことから、成人の集団事例に特異なウイルスが関与していたのではなく、県内に存在していたウイルスが何らかの原因で当該施設内に侵入し、今回の集団発生を引き起こしたものと考えられた。

これまでの報告から、CHRVによる集団胃腸炎が低年齢層における発生に限られると思われがちであるが、成人にも集団発生を引き起こしうることが今回示された。したがって、保健福祉施設などの成人が集団生活を営む施設等においても、CHRV胃腸炎の発生に注意を払う必要がある。

岡山県環境保健センター
葛谷光隆 濱野雅子 西島倫子 藤井理津志 小倉 肇
岡山県津山保健所
田中 操 小田明男 日下幸恵 内藤允子

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