2004年12月に高齢者社会福祉施設で発生したノロウイルスによる集団感染事例−大阪府

(Vol.26 p 98-100)

今冬、特に2005年1月は高齢者社会福祉施設を中心としたノロウイルスの集団発生が全国で猛威をふるった。大阪もその例外ではなく、2004年12月1日〜2005年2月14日までに大阪府立公衆衛生研究所で検査を行ったノロウイルスによる集団感染事例のうち、報道提供を行った事例(発症者10名以上)は高齢者社会福祉施設19件(患者数837名)、その他施設10件(患者数324名)である(食中毒除く)。その中で、12月に報道提供を行った高齢者福祉施設におけるノロウイルスによる集団感染2事例と、2005年1月の1事例(第1報)について報告する。

ケ−ス1:大東市の高齢者社会福祉施設にて2004年12月15日〜16日にかけて入所者2名が医療機関にかかりウイルス性腸炎と診断された。他にも嘔吐、微熱の症状を認めるものが5名おり、共通食をとっている同一敷地内の別施設では患者発生がないことから食中毒によるものではないと判断し、感染症として対策を実施した。22日に患者便4検体の搬入があり、すべてにノロウイルスGII/4 (Bristol, CAW type) を検出した(G2F/G2SKRにて増幅したキャプシッド領域のうち220bpの塩基配列を解析。ケース2,3も同様)。当施設は4階建てであり、その後の患者発生経過をまとめると、ショートステイ1名、2階入所者28名中2名の発症状況に対し、3階入所者30名中16名と4階入所者35名中14名が発症し、2フロアに患者が集中していた。また、職員は6名発症し、うち1名は調理人であった。3階は認知症患者が多く、4階は身辺自立が可能な人が多い。また、2階は介護度が高い。2階における発生が少ない要因として、職員による衛生管理が徹底しやすい環境にあったこと、逆に認知症患者のフロアでの衛生管理のコントロールが難しいことが考えられた。問題点として外の環境と接点のあるショート利用者を各階で受け入れていたことが挙げられる。最終的に発症者は職員を含め39名にのぼった(図1A)。

ケース2:茨木市の高齢者社会福祉施設において2004年12月3日にショートステイ利用者1名がショートステイ利用者集会室にて嘔吐した。5日に別のショートステイ利用者1名が嘔吐、職員2名も発症し、6日には1階利用者に新たに5名、2階利用者に1名と職員の3名が発症した。8日には施設利用者13名、職員3名が発症し、第1回目の発生ピークとなった。施設は風邪予防対策を強化(手洗い励行、消毒剤の携行)したが、13日には第2回目の発生ピークとなった。この段階で、ノロウイルスの可能性が高いことから消毒薬を次亜塩素酸ナトリウムに変更した上で、民間へ検査依頼していた検体を22日公衆衛生研究所に転送した。その結果、3検体すべてからノロウイルスGII/4 (Bristol, CAW type)を検出した。発症者数はデイケア施設、グループホーム利用者にも拡大し、利用者65名、職員40名、計 105名にのぼる大規模な発生となった(図1B)。嘔吐現場が多数の利用者の集まる場所であったこと、嘔吐物の処理がノロウイルスの対応に準じていなかったことなどが感染を拡大する要因になったと思われる。

ケース3:泉大津市の高齢者社会福祉施設にて2004年12月24日職員1名が下痢、嘔吐症状を呈し、次いで26〜28日にかけて入所者5名に下痢症状を認めたが、いずれも加療によって軽快傾向にあったところ、初発から5日目の29日に入所者9名、職員5名が新規発症した。当施設では入所者と職員は同じ食事をとっていたが、3フロアからなる施設において発症した入所者と職員が2階に限局されていたことから人→人感染と判断した。31日には3階のフロアにも感染が拡大し、1月4日に発症者の検便を実施したところ、便検体8検体すべてから、吐物4検体中2検体からGII/4 (Bristol, CAW type)を検出した。29日に発症した職員のうち3名が2階3階を往来する職員であったことが3階への感染を拡大したものと考えられた(図1C)。発症者数は2005年1月11日の時点で入所者60名、職員17名の合計77名であった。

大阪府におけるノロウイルス集団感染事例について過去の発生をみると、2002年12月に1例、2003年10月1例、12月2例、2004年2月に2例となっている。そのうち高齢者社会福祉施設で発生したのは2004年の2月に発生したうちの1例である。本シーズンの1月に発生件数が急増した背景には報道による影響もあるが、この3事例は、12月には高齢者を中心とした施設においてノロウイルスが大阪府内で流行していたことを示唆する事例である。また、従来小児の間で主要タイプであったGII/4 Bristol, CAW typeが3施設で検出されたことは興味深い。

高齢者社会福祉施設の形態や利用方法、さらには入所者の健康状態も様々である。介護老人福祉施設や介護老人保健施設では入所者の健康管理は施設側の管理に大きく依存している。一方で、このような施設ではショートステイやデイケアを併設していることが多く、外部環境との接点のある利用者の健康管理は難しい。したがって、ノロウイルスの持込みには十分留意しなければならないが、そのコントロールは難しく、現段階では嘔吐物、排泄物を適正に迅速に処理できるか否かに感染拡大防止がかかっている。

大阪府立公衆衛生研究所
左近直美 依田知子 神吉政史 山崎謙治 塚本定三 高橋和郎 大竹 徹

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