インフルエンザ脳症が疑われた小児からのインフルエンザウイルスの分離−秋田市

(Vol.26 p 121-122)

2005年3月上旬〜中旬にかけて、秋田市の医療機関(小児科)でインフルエンザ脳症が疑われた患者から採取された検体を用いて、当所でウイルス分離を実施した結果、インフルエンザウイルスA/H3N2型、およびB型が分離されたのでその概要を報告する。

症例1(1歳女児):2005年3月5日ごろ発熱があり、6日に救急外来を受診中に3分間間代性けいれんが出現し、その後意識障害(JCS100〜200)を生じて入院した。入院時の症状は発熱39℃、意識清明、項部硬直(−)、および呼吸音静であったが、入院時に頭部CT撮影で脳浮腫がみられたことから、インフルエンザ脳症と考えられた。入院後、輸液管理、グリセロール投与、およびリン酸オセルタミビル(オセルタミビル)内服開始などにより、8日に解熱した。10日に頭部CTで脳浮腫の改善があり、12日に退院した。同患者の鼻汁(7日採取)を用いてウイルス分離(MDCK)を実施した結果、インフルエンザウイルスB型が分離された。

症例2(9歳男児):2005年3月7日に発熱があり、8日に開業医(小児科)を受診してオセルタミビルの処方を受けたが、40℃の高熱が続き、夕方3回の嘔吐がみられた。さらにつじつまのあわないことを言うようになり、8日に救急外来を受診し入院した。入院時の症状は傾眠状態、項部硬直(−)、および呼吸音静であった。頭部CTで脳浮腫がみられたことから、インフルエンザ脳症と考えられた。入院後、輸液管理、グリセロール投与、およびオセルタミビル内服開始などにより、9日の朝には意識清明となり、10日に解熱した。11日に頭部CTで脳浮腫の改善があり、13日に退院した。同患者の鼻汁(9日採取)からインフルエンザウイルスB型が分離された。

症例3(1歳男児):2005年3月7日に39℃の発熱があり、啼泣後に急に全身性間代性けいれん(1分)を生じ、意識障害遷延(−)であったが救急受診して入院した。入院時の症状は意識清明、項部硬直(−)、および呼吸音静であった。入院後再び全身性間代性けいれんが出現し、頭部CTで脳浮腫がみられたことからインフルエンザ脳症と考えられた。入院後、輸液管理、オセルタミビル内服開始、およびグリセロール投与開始などを行い、8日に解熱した。10日に頭部CTで脳浮腫の改善があり、12日退院した。同患者の鼻汁(8日採取)からインフルエンザウイルスA/H3N2型が分離された。

症例4(6歳女児):2005年3月10日夕方から40℃の発熱、11日に全身性硬直性けいれん(3分)がみられ、救急搬送され入院した。入院時の症状は意識清明、項部硬直(−)、および呼吸音静であった。入院時の頭部CTで脳浮腫などがみられたことから、インフルエンザ脳症と考えられた。入院後、輸液管理、オセルタミビル内服開始、およびグリセロール投与開始などを行い、12日に解熱した。15日に頭部CTで脳浮腫の改善があり、16日に退院した。同患者の鼻汁(11日採取)からインフルエンザウイルスA/H3N2型が分離された。

症例5(5歳女児):2005年3月11日に38.6℃の発熱がみられた。食欲なく、ぐったりして受診した。インフルエンザウイルスA型抗原陽性であり、入院して輸液とオセルタミビル内服にて治療を受けた。12日、意識不明瞭で反応性の低下があり、名前と年齢は答えるが場所が不正確であり、軽度の意識障害と判断された。手足のぴくつきもあり、頭部CT施行したところ脳浮腫の所見があり、インフルエンザ脳症の合併が疑われた。グリセロールとデキサメサゾンを開始し、同日意識は清明になり、13日には解熱した。16日の頭部CTでは脳浮腫の所見が改善しており、23日に退院した。同患者の鼻汁(16日採取)からインフルエンザウイルスA/H3N2型が分離された。

当所で実施している感染症発生動向調査の病原体検出状況(2月8日〜3月24日現在)では、県内医療機関のインフルエンザ患者から採取した検体からインフルエンザウイルスA/H3N2型が17株、同A/H1N1型が1株、およびB型が30株分離されている。

一方、秋田県感染症情報センターから報告された、2005年の秋田市におけるインフルエンザの発生規模(一定点あたりの患者数)をみると、第2週(1月10日〜1月16日)1人、第3週(1月17日〜1月23日)1.82人、第4週(1月24日〜1月30日)2.55人、第5週(1月31日〜2月6日)6.55人、第6週(2月7日〜2月13日) 14.55人、第7週(2月14日〜2月20日) 33.55人、第8週(2月21日〜2月27日) 75.73人、第9週(2月28日〜3月6日)120.27人、第10週(3月7日〜3月13日) 142人、第11週(3月14日〜3月20日) 116人、および第12週(3月21日〜3月27日) 74.55人で、ピークは第10週であった。今回のインフルエンザ脳症が疑われた患者のほとんどは、流行がピークを示した第10週に発症しており、さらに、これらの患者からA/H3N2型およびB型の2種類のインフルエンザウイルスが分離されたことから、第10週のインフルエンザの発生規模の大きさが裏付けられた。

秋田県衛生科学研究所
原田誠三郎 安部真理子 佐藤寛子 斎藤博之 八幡裕一郎 笹嶋 肇
佐藤智子  鈴木紀行
秋田組合総合病院小児科  小松和男

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