2004年の愛媛県における腸管出血性大腸菌(EHEC)感染症患者は98名で、過去5年間で最も多く発生した。そのうちO26はO157を上回り、5事例59名であった(表)。2つの集団発生事例を中心にO26の発生状況について報告する。
事例1:松山市A幼稚園
5月27日、感染症発生動向調査病原体定点の小児科から当所へ感染性胃腸炎患者の便が搬入され、分離培養の結果、EHEC O26(VT1陽性)が検出された。患者は松山市内のA幼稚園(園児318名、職員27名)の園児で、22日に発症(発熱37.9℃、下痢)し、24日に受診した。松山市保健所による健康調査では胃腸炎症状の園児はいなかったが、患者の母親から同菌が分離された。
その後、6月12日に別の小児科からEHEC O26(VT1陽性)の届出があった。この患者(6月7日から発熱、血便、下痢症状)も同園の園児であったことから、パルスフィールド・ゲル電気泳動法(PFGE)による遺伝子解析を実施したところ、分離株のPFGE型は一致した。このことから、A幼稚園における集団感染が疑われ、園児、教職員、家族等接触者458名の検便が実施された。その結果36名からO26が分離され、計38名の集団発生となった。内訳は園児29名、教職員1名、患者家族8名(母親1名、兄弟姉妹7名)であった。感染した園児にクラスの偏りはなかったが、園内の患者発生状況からみて人から人への感染と考えられた。
事例4:西予市B保育所
8月11日、西予市内の小児科から八幡浜中央保健所にO26(VT1)患者の届出があった。3日から腹痛、水様性下痢、血便を呈し、翌日受診したものであった。患者の通うB保育所(園児129名、職員27名)で、他に受診している園児が数名いたことから、園児・職員全員の検便を実施した。のべ416名分の検査を実施した結果、初発患者を含め15名の感染が確認された。感染者は同クラス7名とその家族7名、別クラス1名であった。当所においてPFGEを実施したところ、分離株15株の遺伝子パターンはすべて一致した。感染源は特定できなかったが、園では園児が自宅から持参したタオルを4cm間隔のフックにかけて使用していたことから、このタオルが同クラスの園児間で共用に近い状態で使用され、主な感染要因となった可能性が考えられた。
保健所の勧奨により、感染者15名に対して服薬終了後数回の検便が実施された。その結果、12名は菌陰性となったが、3名は菌陰性の後、再び排菌が確認された。この3名に対して再度服薬を指導し、最終的に全員が菌陰性となったことから終息に至った。
この2事例を含め2004年に県内で発生した家族内および散発例(表)から分離された菌株のPFGE解析の結果、4事例はすべて異なるPFGE型であった(図)。薬剤感受性試験の結果と併せて5事例の分離株間に同一性は認められなかった。
愛媛県立衛生環境研究所
吉田紀美 難波江芳子 田中 博 大瀬戸光明 井上博雄
松山市保健所
尾崎陽子 金元美和子 中村清司 近藤弘一 芝 信明 上田 昭
八幡浜中央保健所
二宮 香 兵頭秀美 攝津和彦 早田 亮 土井光徳
愛媛県保健福祉部健康増進課 白石光伸