韓国修学旅行が原因と考えられる腸管出血性大腸菌O111などによる高校での集団感染事例−金沢市

(Vol.26 p 141-142)

2004年7月、韓国への修学旅行を行った金沢市内の県立高校の生徒および教職員102人から、腸管出血性大腸菌による集団感染を確認したので報告する。

2004年7月7日、O111(VT1&2)の発生届出があった当保健所近郊のC保健所から、患者の通う高校で同じ修学旅行に参加した複数の生徒が下痢や腹痛を訴えているとの連絡があった。同日、学校への疫学調査を実施したところ、調査当日の欠席者10人、下痢や腹痛などの消化器症状ですでに受診した者が6人、うち2人が入院しているとの情報を得た。修学旅行は6月28日〜7月1日にかけて行われ、感染の拡がりを早急に確認する必要があることから、参加した同学年生徒 358人および引率した教職員16人、さらに添乗した旅行会社社員4人を含む計 378人の検便を翌7月8日から開始した。

同時に、学校側に学年9クラス全員の健康調査アンケートを実施してもらった結果、旅行中の6月28日〜帰国した翌日の7月2日をピークに調査日の7月8日まで、107人が何らかの消化器症状があったと回答した(図1)。他の学年の生徒には同様の消化器症状を呈するものがほとんど見られないことから、感染経路は修学旅行中と推定された。

検便は学校側の協力を得て登校時に回収し、7月14日までにはほぼ全員の検便の回収を終えた。受診時に医療機関で実施した9人と他の保健所で実施した4人の計13人以外は、すべて当保健所検査室で実施した。この結果、初発の1人に引き続き、8日2人、9日1人、10日6人、11日26人、12日6人、13日43人、14日9人、15日5人、16日3人の計102人の陽性者(生徒98人教職員4人)が判明した。

しかし、検出された菌型はO111(VT1&2)が72人と最も多いほか、O26、O146、O157、OUT など多種類に及んだ(表1)。最終的に国立感染症研究所の調査により10種類の菌型が判明し、加えて同一菌型におけるパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)型が一致していた。

症状についてみれば、発症が早い者や下痢や腹痛などが強く出現している者は、O111(VT1&2)の患者に多く、また、全く無症状である者は38人いたが、その場合OUTであることが比較的多いような感触を得たが、詳細な検証には至っていない。

陽性者102人(金沢市71人・他市町31人)については、判明次第所轄住所地の保健所が発生届出に基づき、家族を含めた健康調査を順次実施した。帰国後1週間以上経過していることから、接触したと思われる家族等の検便を7月10日〜23日にかけて実施し、対象とした家族342人のうち未提出5人を除く337人(うち当保健所実施分228人)について検査することができた。

7月9日に金沢市在住生徒の小学2年(8歳)の弟1人が、下痢と発熱を訴え、検便結果から兄と同じO111(VT1&2)が検出され、家族内での二次感染(PFGE型一致)と考えられた。しかし、それ以外の家族の検便結果はすべて陰性であった。また、二次感染と思われた弟が通う小学校の同学年児童には、症状を訴えるものは認められなかった。

また、患者の陰性化確認の検便については、金沢市在住者71人において、医療機関で実施した2人を除き69人全員に実施した。服薬中に1回、内服終了後48時間以上経過後1回と計2回ずつの検便を全員に実施したが、抗菌薬の影響から、常在菌が発育してこない者数人がなかなか陰性化を確認できないなど、7月14日からの陰性化確認検査は8月6日まで続き、ようやく終了した。

陽性者の抗菌薬投与など、治療にあたる医療機関については、治療の迅速性や統一性、また、生徒が受診しやすい利便性や心理状況なども考慮し、学校に比較的近い協力病院を学校側からの依頼にて指定してもらい、医療機関との連携を図るなどの対応を行ったが、住所地に近い病院を選ぶ者や、かかりつけ医など、金沢市在住者だけでも25カ所の医療機関に及んだ。

今回の事例は国外で飲食した食材による集団感染と考えられたが、旅行中の喫食調査から、韓国料理に代表される焼肉などの食事内容が多く、中には肉が生焼けであったり、生肉をつけてあったタレをそのままご飯にかけるという食べ方もあった。さらに、露天で飲食した生徒もいるなど、感染の危険が十分あると思われる事実が明らかに存在したようであった。他に疑わしい食材はいくつか推測されたが、韓国での出来事であり、国外の食材に起因する食中毒の発生として国へ報告を行ったが、原因を特定することはできなかった。

毎日、異なる型が時間を追って次々と検出される中、本人や学校への連絡、医療機関への情報提供にと対応に追われ、現場では混乱を隠しきれず、騒然とした状況下におかれた1カ月間であった。検便を実施した数は総勢 720人にも及んだが、特に重症化する者もなく、二次感染も1人だったことは幸いであった。海外へも修学旅行に出かけるようになった現代、学校側はもっと感染症予防に対する認識と危機感を持ち、健康危機管理としての対策を講じて計画するべきである。この事例は無防備な意識に対し警鐘を鳴らすものであり、学校に対する感染症の予防啓発に、保健所としても十分こころしてあたるべきであると痛感させられた。

金沢市保健所
加藤一恵 下浦凉子 梨子村絹代 吉藤香代 城下 謙 櫻井 登

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