2004年12月26日に発生したインド洋津波で、被災国では17万人以上の死亡者が確認され、その多くは個人識別されることなく埋葬・火葬された。これに対してタイでは、犠牲者識別作業(DVI)が続けられており、死亡が確認された5,395人のうち1,800人が識別された。死亡者の50%はタイ人以外であり、この大規模で国際的な業務には、タイおよび約30カ国から合計600人以上が加わった。
臨時死体公示所での業務:DVIチームは寺院や他の建物に手を加えて、臨時の死体公示所4カ所を設立した。当初、約30のDVIチームが異なる法医学的プロトコルを用いていたことと、4カ所の施設がかなり離れていたことから、情報の共有・犠牲者の識別に遅れをきたした。そこで2005年1月12日、国際警察犠牲者識別ガイドに基づいて標準化されたプロトコルを作成するために、多国間のタイ津波犠牲者識別委員会(TTVI)が設立された。TTVIはまた、感染制御専門家を任用することを勧めた。検死データは国際警察のフォームに記録され、行方不明者の生前のデータと照合された。3月31日までに4,082の検死データ、2,164の生前データのファイルが作成され、1,112遺体が識別された。
施設の安全性および健康評価:1月8日タイ公衆衛生省は疾病予防センター(CDC)、軍医学研究所と合同で、最大規模の死体公示所の施設評価を行った。そこでは1日に約300人が作業を行っていたが、そのうち20人のDVI作業従事者と4人の事務官に対して、聞き取り調査が行われた。施設の総合的な安全管理計画はなく、一部の従事者は作業に伴う感染リスクについての懸念を持っていた。DVIエリアや冷蔵コンテナへの立ち入り制限、固形廃棄物・鋭利な廃棄物・廃液の処理法などを含む労働衛生・施設安全管理は既に実施されていた。個人防護具(PPE)も使用されていたが、過度の使用や不適切な使用などが確認された。さらに、不適切な休憩所設置、不十分な手洗い設備、不十分な衛生指導なども認められた。近隣の医療機関での調査によって、DVI従事者の作業に伴う外傷や、粘膜面への体液の飛散事例などが確認された。
施設の衛生改善:調査チームは公衆衛生省に対して衛生改善のための提言を行い、タイ語と英語によるファクトシートを作成したが、これには、(1)死体公示所の空気や遺体に関する業務では感染の危険性は低いこと、(2)死体公示所で作業する際に使用すべきPPE、(3)遺体からの体液の飛散を受けた場合、鋭利なもので傷を負った場合の対処法、などが記載された。CDCは、死体公示所での作業で発生する液状廃物の適切な廃棄に関するガイドラインを作成した。1月末に行った再調査にて、多くの提言が実施されていることが確認された。
(CDC, MMWR, 54, No.14, 349-352, 2005)