Human metapneumovirus感染に伴ったけいれん重積型急性脳症の1例

(Vol.26 p 153-153)

症例は1歳2カ月の女児で、生来健康であった。2004年3月下旬、38℃の発熱、鼻汁、軽度の咳嗽が出現したため、近医を受診したが、インフルエンザ抗原検査は陰性であった。翌夕に体温は40℃に上昇し、全身けいれんが生じ、救急車で約30分を要して、A病院へ搬送された。ジアゼパムとミダゾラムが静注されたが止痙せず、気管内挿管後に当院の集中治療室に入院となった。入院時も持続していたけいれんは、チオペンタールで止痙されたが、けいれん持続時間は2時間を超えていた。検査では白血球数30,000/μL、CRP 2.9mg/dL、血糖230mg/dl 、AST 143(8-38)IU/L 、LDH 491(106-211)IU/L等の異常を認めた。治療は人工呼吸、中心静脈栄養、ペントバルビタール持続投与、ステロイドパルス療法、大量ガンマブロブリン療法、シクロスポリンA、インフルエンザの可能性を考慮してオセルタミビルの投与などを行った。肺炎の治療には高濃度酸素が必要で、抜管まで12日を要した。

頭部MRI・拡散強調画像では両側前頭葉、左頭頂葉などの皮質に高信号が認められ、白質にも変化を認め、1カ月後の頭部MRI では同部の萎縮が著明である。運動と知能面に重度の後遺症を残した。

入院時に採取した鼻汁よりRNAを抽出し、RT-PCRを行った結果、ヒトメタニューモウイルス(hMPV)の遺伝子が検出された。細胞培養ではインフルエンザウイルスは検出されなかった。本例はhMPVによる発熱により熱性けいれん重積症が生じ、後遺症を残したものと考えられたが、このような病態を著者らはけいれん重積型急性脳症(AEFCS)とよんでいる。当院のAEFCS 27症例をみると、発熱の原因はHHV6が8例、インフルエンザ4例、RSウイルス、アデノウイルス、麻疹、麻疹ワクチン、hMPV、細菌性髄膜炎が各1例で、不明は6であった。また、危険因子と考えられるテオフィリン服用例は11例であった。AEFCSは脳へのウイルス感染による一次性脳炎や、感染に伴う免疫反応を介する二次性脳炎とは異なり、けいれん重積による神経細胞障害であると考えられるが、急性脳症のひとつの型と捉えた方が理解しやすい。

hMPVは上気道や下気道感染症を生じ、大部分の小児は5歳までに感染するといわれる。インフルエンザよりも熱性けいれんの合併が多いとの報告もある。また、ドイツからhMPVによる脳炎の報告がある。中枢神経合併症を含め、hMPV感染症の病像全体を明らかにすることが必要であろう。

大阪市立総合医療センター・小児救急科
津田雅世 石川順一 吉本 昭 外川正生 塩見正司
大阪市立環境科学研究所・微生物保健課
改田 厚 村上 司 入谷展弘 久保英幸 後藤 薫 石井営次

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