簡易水道が原因と考えられたノロウイルスの流行−秋田県

(Vol.26 p 150-151)

2005年3月16日〜18日にかけて山間部の集落でノロウイルスが原因の感染性胃腸炎が流行した。3日間で発症者数は14世帯29名で、そのうち16名の検便を実施したところ11名からノロウイルスGenogroup (G) II型が検出された。発症者の年齢は7〜77歳と開きがあり、それぞれの世帯は集落内に分散しており、集会などで共通の食品を食べる機会はなかった。また、子供の通う学校でも胃腸炎の流行は見られなかった。これらのことから、唯一共通する感染経路として、集落内の94世帯258人に飲料水を供給している簡易水道を調査したところ、原水である井戸水(3月22日採取)からノロウイルスGII型が検出された。

糞便の検査は、プライマー「COG2F」、「COG2R」、「ALPF」とTaqManプローブ「RING2AL-TP」、およびロシュ社製LightCyclerを用いたリアルタイムPCRにより行った。水検体については1リットルにポリエチレングリコールと食塩をそれぞれ10%と1Mになるように加えてウイルス粒子を濃縮し、プライマー「COG2F」と「G2-SKR」による予備増幅を行った後、上記のリアルタイムPCRを行った。また、糞便と水検体の予備増幅産物に対してビオチンラベルされたプライマー「G2-SKF」と「G2-SKR」によるPCRを行い、一本鎖高次構造多型解析(SSCP解析)によりパターンを照合した。糞便11検体と水検体から検出されたノロウイルスのSSCPパターンが一致したことから、井戸水とそれを給水する簡易水道が原因であったと考えられた。また、SSCP解析を行ったPCR増幅産物のシークエンスを決定したところすべて一致し、系統樹ではMelksham株に近い位置に分類された。

簡易水道の設備と周辺状況を調査したところ、原水を採取する井戸の深さは6mと浅く、井戸から2mのところに川が流れていた。その川には住民の生活排水が流れ込むようになっており、この集落のトイレは浄化槽、または汲み取り式であった。簡易水道は、水道法第4条に規定されているとおり、井戸から汲み上げた水を塩素滅菌機に通してからポンプで集落へ給水する構造となっていた。しかしながら、当時の塩素滅菌機は不調で機能していなかったため、この規定に違反していたことになる。感染拡大防止策として3月17日に水道を停止し、給水車に切り替えたため健康被害は最小限で食い止められた。水検体を採取した時期はその後であったため、検出されたウイルスは、16〜18日に発症した人のものということになる。しかし、生活排水によって汚染されやすい位置に採水場所があったため、今回の流行が引き起こされたと考えられた。従って、簡易水道等を設置する場合には原水の採取場所を慎重に選定する必要があることを示した事例であったといえよう。

秋田県衛生科学研究所
斎藤博之 佐藤寛子 安部真理子 石塚志津子 原田誠三郎 鈴木紀行
山本地域振興局福祉環境部
北嶋哲彦 高橋 浩 川村之聡 金恵美子 堀内和之 永須昭夫 渡邊 稔
小柗真吾 伊藤善信

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