A/H3N2型およびB型インフルエンザウイルスの同時感染例

(Vol.26 p 152-152)

ウイルス分離状況からみた埼玉県における2004/05シーズンのインフルエンザ流行は、A/H3N2型とB型の同時流行であり、B型がやや優勢であった。当該シーズン中に、同一検体からA/H3N2型およびB型ウイルスを分離した例を経験したので概要を報告する。

患者は2歳男児で、2005年3月2日に発症して医療機関を受診し、迅速診断キットによりA型とB型の両方の陽性反応を呈した。ウイルス分離用の検体が3月9日に衛生研究所へ搬入されたが、その際の迅速診断キットの結果はA型のみが陽性であった。

検体を接種したMDCK細胞において3日後にCPEが出現し、その培養上清を用いてHI試験を実施したが、感染研から配付された5種類の抗血清のいずれにも反応しなかった。培養上清のRT-PCRの泳動結果は、AH3、AN2、およびBが陽性であり、AH1、AN1、AH5は陰性であった。また、培養上清を用いた迅速診断キットでは、A型およびB型の両方が陽性であり、A型の陽性反応がより強く出ていた。これらの結果からA/H3N2型ウイルスとB型ウイルスの同時感染が疑われた。

そこで、同時にウイルス分離を実施した他の検体による汚染の可能性の排除、およびA型とB型のウイルスを分けて分離するために、再度検体からの分離培養をトリプシン含有培地および非含有培地を用いて試みた。分離ウイルスの型の判定には迅速診断キットを用いた。その結果、トリプシン含有培地によりA型のみに陽性反応を呈する培養上清、トリプシン非含有培地により、A型とB型両方に陽性であるがB型の反応がより強い培養上清を得ることができた。各々を限界希釈法により2回継代して得たA型ウイルスおよびB型ウイルスを用いて再度HI試験を実施したところ、A型ウイルスのHI価は、A/Wyoming/03/2003(H3N2)抗血清(ホモ価640)に対して160、A/New Caledonia/20/99(H1N1)(同160)、A/Moscow/13/98(H1N1)(同1,280)、B/Johannesburg/5/99(同1,280)およびB/Brisbane/32/2002抗血清(同1,280)に対して<10であった。またB型ウイルスのHI価は、B/Johannesburg/5/99抗血清に対して640、他4種類の抗血清に対して<10であった。以上より、この検体はA/H3N2型ウイルスとB型ウイルスの同時感染例であると判定した。

通常のウイルス検査において、インフルエンザウイルスとアデノウイルス等の同時感染例は時々経験するが、2種類のインフルエンザウイルスによる同時感染例の報告は非常に少ない。近年のインフルエンザシーズンは2種類以上のインフルエンザウイルスの同時流行が認められており、このような時期のインフルエンザ検査では同時感染の可能性を考慮しながら、より注意深く対処することが必要であると思われた。

 文 献
松浦久美子他、AH3型とB型インフルエンザウイルスによる混合感染の1例について、富山県衛生研究所年報第25号, 172-175, 2002

埼玉県衛生研究所・ウイルス担当
島田慎一 篠原美千代 内田和江 土井りえ 河本恭子 清水美穂 菊池好則

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