保育所での腸管出血性大腸菌O26とノロウイルスの複合感染事例−島根県

(Vol.26 p 147-148)

2005年1月に隠岐保健所管内の保育所で腸管出血性大腸菌O26(O26)とノロウイルス(NV)の複合感染事例が発生したのでその概要を報告する。

2005年1月17日、役場よりA保育所(園児72名、職員12名)の乳幼児21名が下痢、嘔吐の症状を呈し欠席しているとの通報があった。保健所の調査の結果、発症者は14日から増加し始め17日までの4日間で28名に上った。また、複数の園児の家族にも同様の症状を呈する者が認められたが、職員に有症者は認められなかった。患者の発症時間に幅があることからウイルスあるいは細菌による感染症を疑い検査を実施した。

最初に把握された有症者のうち園児16名、家族6名の便についてリアルタイムPCR法あるいはRT-PCR法にてNV検査を実施したところ、園児14名、家族6名からNV genogroup (G)IIを検出した。さらに園児1名と職員4名を加えた27名について行った細菌検査の結果、園児6名、家族3名からO26:H11(VT1)を分離したため、園児と職員全員、症状のあった家族およびO26 患者家族、計88名についてO26の検査を実施した。その結果、新たに園児1名(有症)、家族2名(健康)からO26:H11(VT1)を分離した。なお、検食および調理室、保育室、トイレのふきとり細菌検査を実施したが、すべて陰性であった。

初発でO26とNVが検出された園児の発症日である1月8日以降に嘔吐または下痢があった者を患者と定義して、発症者数およびO26、NV検出状況をに、クラス別の発症状況を図1、検査成績別の発症状況を図2に示した。クラスはほぼ年齢別に5つに分かれており、(1)が最年少児、(4)(5)が年長児である。クラスによって発症率、検出率に差はあるものの、発症日は週末の15〜17日にピークとなっており、クラスによる偏りはない。O26、NVの検出の有無と発症日との間に関連は認められなかった。また、O26、NV検出の有無と臨床症状との関係を検討したが、園児でO26陽性者が発熱の頻度が高かった以外、差は認められなかった。さらに家族内感染と推定される例を11例認めたが、1例を除き家族に先行して園児が発症しており、二次感染と考えられた。保健所は1月19〜29日までの給食の自粛、シャワー室等施設の消毒指導、保護者説明会での感染予防の指導を行った。

分離されたO26:H11(VT1) 12株は国立感染症研究所での解析の結果、パルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)パターンはすべて一致し、同一菌株による集団感染が示唆された。また、NV陽性となった20例のG2SKF/R プライマーを用いたPCR増幅産物のSSCP解析像が同じであったことから、同一の塩基配列のNV株と考えられた。

今冬は全国的にNV集団発生が相次ぎ、マスコミでも大きく取り上げられた。本県でも12月中旬から複数の施設で集団発生が認められ、本事例もその最中に起こった例である。NVとO26の感染源は不明であったが、発症状況、臨床症状等はNV単独感染事例と差異はなかった。本事例はウイルス検査と細菌検査を実施して明らかとなった稀な複合感染事例である。

島根県保健環境科学研究所 飯塚節子 角森ヨシエ 田原研司
隠岐支庁隠岐保健所 津田一男
松江保健所 福間常夫

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