千葉市内スポーツクラブの水泳合宿に係るクリプトスポリジウム症集団発生(長野県集団感染事例における関連報告)

(Vol.26 p 168-169)

2004(平成16)年8月20日〜24日の期間に、水泳合宿のために長野県内のTホテルを利用した千葉県内のSスポーツクラブ255名のうち151名が、8月26〜27日にかけて下痢等の消化器症状を呈した。Sスポーツクラブは千葉県内に20のクラブを有しており、そのうちの10クラブが当該ホテルを利用していた。

9月1日に長野県衛生部食品環境課は、関係自治体に食中毒の疑いとして調査を依頼した。千葉市における調査対象者(水泳合宿参加者)は、10クラブのうちの1グループに所属する39名(インストラクター2名を含む)であった。

調査の結果、対象者39名中38名が発症者(発症率97%)であり、Tホテル内のプールを使用していた。患者発生は8月24日〜9月1日の期間に認められ、8月28日をピークとするほぼ一峰性の推移を示した(図1)。発症者のすべてに下痢が認められ、次いで発熱が84%、および腹痛が79%と高率に認められた。下痢は、ほとんどが水様性であり1日に数回〜20回程度認められた。その他の症状として嘔吐(61%)、吐き気(50%)、頭痛(32%)、および悪寒(11%)等が認められた。

当初、長野県衛生部食品環境課は、発症者便について食中毒菌およびノロウイルスの検査を依頼していた。しかしながら、発症者のうち2名は千葉市立青葉病院を受診しており、9月1日に同病院検査科より「当該発症者2名の便からクリプトスポリジウムを疑うオーシストが検出されたため、当所にて確認検査を依頼したい」旨の情報提供があったことから、千葉市では、長野県の検査依頼項目に加えてクリプトスポリジウムの検査を実施することとした。

発症者31名の糞便について、ショ糖浮遊法または遠心沈殿法(MGL法)による集オーシスト法、および直接蛍光抗体法によりオーシストの検出を行い、特異蛍光が認められる5μm前後の粒子について微分干渉顕微鏡を使用し、内部のスポロゾイトや残体等の存在を確認したところ、30名の糞便からクリプトスポリジウムのオーシストが検出された。さらに、長野県からの依頼によりオーシスト陽性の糞便4検体を国立感染症研究所・寄生動物部へ送付し、クリプトスポリジウムの遺伝子型別(PCRにより増幅したポリスレオニン領域の約520bp塩基対)を実施したところ、すべてCryptosporidium parvum ヒト型であった。

また、発症者らが所属するクラブ(千葉市内)のプール水を9月2日および9月6日に20Lずつ採取し、公定法(平成10年6月19日 衛水第49号)によりクリプトスポリジウムの検査を行ったが、これらのプール水2検体からオーシストは検出されなかった。

一方、発症者便の細菌検査(5検体)およびノロウイルス検査(11検体)を行った結果、すべて陰性であった。

長野県は、Tホテル内のプールおよび体育館を利用したグループに発症者が限定されていることから、プール水等を介した感染の可能性を示唆した。このことは、C. parvum オーシストの感染力が非常に強いために人→人の感染が起こりやすいことや、オーシストが塩素消毒に抵抗性を示すことに符合する。

なお、今回の事例においては、市立青葉病院からの検査情報と長野県からの通報のタイミングが少しでもずれていたならば、両者の情報がリンクしたか否か危うかったと思われる。国内における原虫性疾患の減少に伴い、医療関係者、および疫学調査担当者は細菌およびウイルス検査を優先する傾向が強く、原虫性疾患も含めた対応は稀である中で、市立青葉病院における対応は、本事例の病因物質を解明する糸口を提供したものである。情報の共有化と並行して情報を横断的に検討し、点と点がつながる可能性を見逃すことのない対応が重要であることを強く感じた事例であった。

千葉市環境保健研究所・医科学課
横井 一 鶴田美好 田中俊光 都竹眞実 秋葉容子 木村智子 時田暘子
秋元 徹 三井良雄 小笠原義博 池上 宏

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