クリプトスポリジウムの遺伝子型別と事例解析

(Vol.26 p 174-174)

クリプトスポリジウムの検出報告にあたっては、種あるいは遺伝子型まで明らかにすることで、感染経路、感染源の特定など流行対策に有用な情報が得られる。特に水系集団感染の場合は、水道の給水停止等の措置が検討されるため、検出されたクリプトスポリジウムの正確な同定と迅速な感染経路、感染源の特定は急務である。

DNA検査法

PCR/RFLP法またはダイレクトシークエンス法を用いた遺伝子型別が行われる。種レベルの同定に有用な18S rRNA遺伝子をはじめ、様々な遺伝子領域あるいはDNA領域を分類同定に用いることが試みられている。実際の検査方法に関して注意すべきは、オーシストからのDNA抽出が難しい点である。市販の糞便用DNA 抽出キットを指示通りに使用する場合、糞便中のオーシスト数が多いこと、新鮮あるいは凍結した材料を用いることが成功の条件となる。一方、ホルマリン固定標本では抽出効率が低下することから、固定標本を用いる場合はSDS加熱抽出法を用いると良い。

事例解析

感染研で行った調査の結果では、Cryptosporidium parvum ヒト型が27例で最も多く、C. parvum 動物型は6例、C. meleagridis が6例の他、C. felis が3例、C. parvum イヌ型が1例検出されている。C. parvum ヒト型はさらにポリスレオニン領域のシークエンス多型から3つのサブタイプ(H1〜H3)に分けられ、これまでに調べたHIV感染10例はすべてがH1タイプであるという結果が得られている。いずれも東京近郊の医療機関からの依頼であったことから、同タイプの流行があった可能性が示唆された。一方、非HIV感染例に関してはこれまで8症例(旅行者下痢)を解析し、2種類のサブタイプが検出された。そのうちH3タイプが1例、残り7例はH2タイプで、同タイプが非HIV/AIDS関連では優占的であった。

集団発生事例に関しては、これまで国内では1994年の神奈川県での集団感染発生以来、2005年現在までに6例の集団感染が発生しているが、そのうち4例に関しては原因となったクリプトスポリジウムの遺伝子型が明らかにされている。18S rRNA遺伝子およびポリスレオニン遺伝子領域に関して調べた結果をまとめると、神奈川県平塚の事例(1994)はC. parvum 動物型、その後の埼玉県越生(1996)、北海道/兵庫県(2002)そして直近の長野県(2004)の3例はC. parvum ヒト型による感染であり、埼玉県越生および長野県の事例はH1タイプ、北海道/兵庫県の事例はH2タイプの株が原因であった()。いずれにしても国内の集団感染においてはC. parvum ヒト型による感染例が多い傾向にある。なお、長野県の事例では迅速な分子疫学的調査が進められ、プールのろ過槽の砂、あるいはトイレ付近の流し場の床材からの分離株の遺伝子型が患者分離株のものと一致し、また複数県で発生した患者分離株の遺伝子型が一致したという結果から、迅速な原因究明につながった。

試料提供協力者:増田剛太(東京都立北療育医療センター)、AIDS治療・研究開発センター(国立国際医療センター)

国立感染症研究所・寄生動物部 八木田健司 泉山信司 遠藤卓郎

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