山形県におけるつつが虫病の発生状況

(Vol.26 p 179-180)

山形県では、医療機関からつつが虫病の検査依頼があった場合、Karp、Kato、Gilliamの標準抗原を用い間接免疫ペルオキシダーゼ法(IP)で抗体測定を行ってきた。1999(平成11)年からは上記3標準抗原にKawasaki、Kuroki、(Shimokoshi*)を加え、間接蛍光抗体法(IF)で抗体測定を行っている。また、PCRによる病原体遺伝子検出も実施するようにしている。

山形県における過去10年間のつつが虫病発生状況を表1に示した。年間数人〜十数人の患者発生届出があり、過去10年間で合計95人の患者発生届出があった。患者発生時期は図1に示すとおり5月を中心とした春〜初夏の時期に多く、10月を中心とした秋にも発生が少しみられる。患者の性別は男33人、女62人で女性の患者が多い。患者届出は県内4地域すべてからあるが、人口比でみると患者発生に地域的な偏りが認められた(表2)。抗体価から推定される感染病原体の血清型は、Karpが69人(73%)と最も多く、次いでGilliamが15人(16%)であった。その他にShimokoshiが3人、Kawasakiが1人みられ、不明のものが7人あった。PCRは1999年以降の56人の患者[2005(平成17)年の患者2人を含む]中45人で実施し、25人(56%)から病原体遺伝子が検出され、型別のPCRではいずれもKarpであった。

2005年5月に2人の患者の検査依頼があり、検査を行ったのでその概要を報告する。

1例目の患者は70代の女性で4月26日発病、当初脳梗塞の再発と考えられ治療が行われた。5月に入り39℃台の発熱、発疹、左脇胸部の痂皮を認め、痙攣やDICを起こすなど全身状態の悪化があり、当所につつが虫病の検査依頼がなされた。採血は5月10日(15病日)で、既にKarpに対しIgM 320倍、IgG 640倍あり、つつが虫病の診断がなされた。血液を試料にPCRを行ったところ、primer 10 、11のNested PCRで507bpのバンドが検出され、型特異的primerを用いた型別のNested PCRでKarpのバンドが検出された。また、脳炎、髄膜炎の所見もあり、5月8日に採材した髄液からPCRを行ったところ、Karpのバンドが検出された。この患者はミノサイクリンの投与が5月9日から行われたため、病原体が長期間体内に生残したと考えられる。患者は4月中旬頃、住居地近辺の水田で野草の採取を行っていた。

2例目の患者は20代の男性で、4月29日に近くの町の山地にある公園にレジャーに出かけている。5月5日に発病し、38℃台の発熱、全身の発疹、鼠径部リンパ節腫脹などがあり、刺し口は認めなかった。つつが虫病が疑われ5月9日に採血(5病日)、当所に検査依頼があった。抗体価は、KarpとKatoのIgGが40倍、他はすべて20倍以下で、抗体からつつが虫病と診断することはできなかった。しかし、PCRではNested PCRで507bpのバンド、および型別PCRでKarpのバンドが検出され、つつが虫病であることが確認された。この患者の5月16日(12病日)の血液では、Karpに対する抗体価がIgM 5,120倍、IgG 1,280倍と明らかな上昇が認められた。

PCRによる遺伝子検出は早期診断にきわめて有効と考えられるが、本県で確認されたつつが虫病患者で、PCRが実施できた45人中、検出できたのは25人の5割強であった。DNA抽出法の改善など、検出率向上に向けた検討をする必要があると考えられる。

*:Shimokoshiは抗原が無くなり現在検査は行っていない。

山形県衛生研究所 大谷勝実 村田敏夫 最上久美子
米沢市立病院 栗村正之 松本幸夫
寒河江市立病院 見澤達夫

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