マールブルグ病に対する国内対応

(Vol.26 p 217-218)

1.対応の経過

アンゴラにおけるマールブルグ病の発生情報は、2005年3月17日にWHOにより公表された。3月23日付WHOの更新情報では、既に患者数が102人、そのうち死亡数95人であると報告された。それらの情報を受け、3月24日から厚生労働省検疫所ホームページFORTH(http://www.forth.go.jp/)において、渡航者に対して、WHO 公表に基づく情報の提供を開始した。その後、3月29日には、在アンゴラ日本大使館から各在留邦人に対しての注意喚起が行われ、3月31日には、外務省の海外安全ホームページ(http://www.pubanzen.mofa.go.jp/index.html)において、渡航者向けスポット情報に掲載し、注意喚起が行われた。

マールブルグ病は、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」において1類感染症と定めており、動向を注視した。当初、患者の発生地域は首都から離れたウイジェ州に限局していた。しかし、4月4日には、ウイジェ州以外でも患者が確認されたことがWHOにより発表され、4月7日には6州、4月8日には7州へと拡大したと報告され、患者数は205人、そのうち死亡数180人と急増した。致死率については、過去の知見では一般的に23〜25%といわれていたが、アンゴラでの患者では、致死率が90%を超えるという状況であった。アンゴラの在留日本人は約20人程度であったが、アンゴラは地下資源が豊富で、石油や鉱物の輸入などのため、日本企業からの短期滞在者もみられる状況であるとの情報があり、渡航者の感染予防とともに、国内への感染の持ち込みを防ぐための対応が必要と考えられ、4月15日、各検疫所長あてに「アンゴラにおけるマールブルグ病流行への対応について」[2005(平成17)年4月15日健感発第 0415001号・食安検発第 0415001号]を通知し、対応について指示した。指示した内容は次のとおりである。

2.各検疫所における対応

アンゴラに渡航または滞在していた入国者に対しては、自己申告させるよう行政指導を実施することとした。アンゴラと日本との直行便は無く、アンゴラからの渡航者は、香港、シンガポール、パリ、ロンドン等を経由して本邦に入国することとなるため、航空便を特定することはできない。そのため、航空会社への協力依頼をするとともに、検疫ブースにおいて、掲示により行政指導することとした。また、発熱者の発見のため、サーモグラフィー等により体温測定を実施することとした。

自己申告のあった入国者に対し、質問票を配付し、アンゴラに渡航または滞在していたことが確認された場合には、医師による診察を行うこととし、次の(1)および(2)に該当する者は、停留の措置をとることとし、マールブルグ病の患者であることが確認された場合には隔離をとるよう指示した。

(1)発熱および疲労・倦怠感を伴う
(2)アまたはイのいずれかに該当するもの
 ア.発症前10日以内にウイルス性出血熱を疑う者または動物の血液その他の体液もしくは排泄物と直接の接触(針刺し等を含む)がある者

 イ.発症前10日以内に出血性ウイルスを取り扱う検査機関、研究機関または動物施設における業務に従事した者

(1)発熱および疲労・倦怠感を伴い、アまたはイのいずれにも該当しない者、および(2)無症状であり、アンゴラを出国後10日以内の者については、240時間内において、体温その他の健康状態について報告を求めるものとし、この間、健康状態に異常を生じた者を確認したときは、医療機関において診察を受けるべき旨、その他マールブルグ病の予防上必要な事項を指示するとともに、当該者の居所の所在地を管轄する都道府県知事(保健所を設置する市または特別区にあっては、市長または区長とする。)に通知する。なお、これらの対応は、検疫法に基づく対応である。

通知においては、マールブルグ病の患者またはその病原体に感染したおそれのある者に対して隔離または停留の措置をとる場合は、各検疫所作成の検疫感染症措置要領に従い搬送すること、搬送に際しては、感染防御に十分留意するようあらためて指示するとともに、アンゴラへの渡航者に対し、マールブルグ病の発生および流行の状況、ならびに必要な注意事項について情報提供するよう指示したところである。

各検疫所は、通知に基づき、アンゴラに渡航または滞在していた入国者に対しての質問票の配布、医師の診察を実施しており、7月末現在、停留をする者は出ていない。 240時間の健康状態の報告を求めた者においても、健康状態の異常がみられたとの報告はない。

感染症対策においては、時宜を得た対応を要し、国内で発生していない疾患では特に、国外の感染症の発生動向を敏感に捉えながら、今後も迅速な対応を図っていきたい。

厚生労働省健康局結核感染症課 前田光哉

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