ヒトアデノウイルス17型の分離および同定−大阪市

インフルエンザ様疾患を呈した患者から分離されたウイルスについての遺伝子解析を行った結果、本分離ウイルスはヒトアデノウイルス17型(Ad17)と同定されたので、以下に報告する。

患者は大阪市内在住の当時1歳3カ月の女児で、2005年2月16日に発症して医療機関を受診し、インフルエンザ様疾患と診断された。当所に搬入された鼻汁検体をMDCKおよびVero細胞に接種したところ、Vero細胞の2代目継代第5日頃から収縮円形化様の形態を示す細胞変性効果(CPE)が認められたことから、ウイルス分離陽性と判定した。なお、MDCK細胞におけるウイルス分離は陰性であった。Vero細胞にて3代継代後の本分離ウイルスのVero細胞における感染価は、10 TCID50/0.1ml未満であった。当所では2005年1月に搬入された流行性角結膜炎と診断された患者結膜ぬぐい液から、Vero細胞にて今回と同様のCPEおよび感染価を示したウイルスを分離し、このウイルスをAd8と同定した経験を得ていたことから、次に、本分離ウイルス培養上清中のDNAを抽出し、Adヘキソン遺伝子領域特異的プライマー(AdTU7、AdTU4'、AdnU-S'およびAdnU-A)を用いたnested PCRを行った1)。その結果、956bpの特異的フラグメントの増幅が認められたことから、本ウイルスはAdであることが明らかとなった。特異的増幅フラグメントについて、AdnU-S'およびAdnU-Aプライマーを用いたダイレクトシークエンスを行ってその領域中の852塩基の塩基配列を解読した後、これについてのBLAST検索(http://blast.genome.jp/)を行った結果、本塩基配列はAd17(Accession No. NC_000006)に最も近縁であることが明らかとなった。本分離Adの解読可能となった塩基配列は、上記レファレンスAd17遺伝子の塩基番号19,651〜20,502に相当し、95.9%の相同性を示したことから、本分離ウイルスはAd17と同定された。

Adの血清型は現在51種類に分類されているが、このうち中和試験用の抗血清を容易に入手できる血清型は10数種類にすぎない。従って、分離ウイルスが簡易診断キットまたは電子顕微鏡観察においてAd陽性になったとしても、中和試験不成立のためにAd未同定にせざるを得ないケースも少なくないことが予想される。また、今回のように、中和試験の実施に十分な感染価の得られないAdの分離されるケースが、当所ではこれまでに数例認められている。各Adヘキソン遺伝子領域を特異的に増幅するプライマーによって得られた特異的フラグメントに対する遺伝子解析を行う上記方法は、Adの血清型別法として有用であると考えている。

文 献
1)Saitoh-Inagawa W, et al.,J Clin Microbiol 34: 2113-2116, 1996

大阪市立環境科学研究所 久保英幸 村上 司 入谷展弘 改田 厚 後藤 薫

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