2005年3月に県内の飲食店(旅館)で提供された食事が原因と考えられるノロウイルス(NV)による胃腸炎の集団発生があったので報告する。
3月25日に飲食店で調理、提供された料理を喫食した1グループ51名のうち、下痢、嘔吐の症状を呈した2名が26日に病院を受診し、うち1名が入院した。その後、他の31名も何らかの症状を呈していることが判明した、という内容の通報が28日に医師から保健所にあった。保健所の調査の結果、3月23、25、26日に飲食店で調理された会席料理またはオードブルを喫食した27グループ163名中106名に下痢、腹痛、発熱等の症状があることが判明した。初発グループの共通食は3月25日に提供されたもののみであったこと、他のグループにも同様の症状を呈する人がいること等から食中毒と断定された。平均潜伏時間は37.3時間であった。主な症状は下痢78名(74%)、腹痛65名(61%)であり、嘔吐は37名(35%)であった。
患者17名、調理従事者4名の糞便と検食6品についてNVの検査を行った。患者12名、調理従事者3名からRT-PCR法によりNV遺伝子 Genogroup I(GI)が検出され、電子顕微鏡による検索ではNV粒子が観察された。食品からは検出されなかった。キャプシド領域(G1SKF/R)の塩基配列は患者11名、従業員3名が100%一致し、GI. 3 Stavanger/95/NO(AF145709)typeであった。これは、今シーズン小児の感染性胃腸炎患者より検出された株と100%一致しており、この株が県内で流行していることが示唆された。なお、患者1名はGI. 11 SaitamaKU8GI/99/JP(AB058547)typeであった。
今回、調理従事者は全員何らの症状も呈してはいなかったが、3名からNVが検出された。また、調理従事者と患者から検出されたウイルスの塩基配列が100%一致したことから、調理従事者から食品等を介して感染が拡がり食中毒が起こったと考えられた。
当施設では手洗い設備が活用されていなかったことが判明しており、調理従事者の手洗いが適切に行われていれば、事件の発生、拡大は防げたのではないかと考えられた。
山口県環境保健研究センター
岡本玲子 西田知子 戸田昌一 中尾利器 吉川正俊