大阪府和泉保健所管内の男性が2005年7月4日からベトナムに旅行し、8日に帰国した。帰国当日かぜ様疾患(7日に発病)を訴え近医を受診したところ、迅速診断キットでA型インフルエンザと診断されたため、検体(うがい液)が当所に搬入された。
検体はMDCK細胞に接種するとともに、RNA抽出を行い、AH1、AH3、AH5に特異的なプライマーを用いてRT-PCRを実施した。しかしながら、いずれのプライマーにおいても特異的なPCR 産物は確認できなかった。7月11日になってMDCK細胞にCPE変化が認められたので、ニワトリ赤血球とヒトO型赤血球を用いてHA試験を実施した。ニワトリ赤血球では凝集はみられなかったが、ヒトO型赤血球では32HAUの凝集能が観察されたので、国立感染症研究所が配布しているインフルエンザサーベイランスキットを用いてHI試験を行った。その結果、分離されたウイルスは抗A/Moscow/13/98(ホモ価1,280)、抗A/New Caledonia/20/99(同320)、抗A/Panama/2007/99(同1,280)、抗B/Brisbane/32/2002(同10,240)、抗B/Johannesburg/5/99(同≧20,480)に対してはHI価<10を示したが、抗A/Wyoming/03/2003(同2,560)に対してはHI価1,280を示した。さらに培養上清からRNAを抽出して上記と同様のプライマーを用いてRT-PCRを実施したところ、AH3型に特異的なPCR産物を確認した。以上の結果から、今回分離されたウイルスはAH3型インフルエンザウイルスと同定した。
国立感染症研究所・感染症情報センターによると、ベトナムのインフルエンザ流行シーズンは6〜8月および12〜3月で、現在はAH3型とB型インフルエンザが流行しており、患者発生数も多いとのことである。
大阪では7月に入ってからはインフルエンザの活動は報告されていないので、この患者はベトナムで感染したものと思われる。これからも、トリおよびヒトにおいてA/H5N1型ウイルス感染が報告されているベトナム等の国々から帰国、あるいは入国したインフルエンザ様症状を呈する患者については、感染鶏との接触の有無だけでなく、ケースバイケースで対応し、ウイルス分離を含めた正確な診断をすることが必要であると思われる。
大阪府立公衆衛生研究所・感染症部 加瀬哲男 森川佐依子 奥野良信
大阪府地域保健福祉室・健康づくり感染症課 伊藤房子
国立感染症研究所・感染症情報センター 谷口清州