2004年8月19日に透析導入目的でA病院に入院(72歳・男性)。この時に発熱認めるが、胸部X線は異常なし。23日より右下肺野に浸潤影出現、炎症反応の上昇を認め、MEPM等の抗菌薬投与をされるが呼吸状態悪化し人工呼吸管理となり、27日神戸市立中央市民病院に転院した。入院時の胸部X線で右肺全体にすりガラス様陰影を認めた。WBC 20,300/μl、CRP 49.5mg/dl、血液培養、抗酸菌塗抹およびPCR、肺炎球菌およびレジオネラ尿中抗原はすべて陰性であった。MEPM(0.5g/日)に加えCPFX(300mg/日)を追加した。転院前日からのステロイドパルス療法( 1g/日、3日間)はそのまま継続した。治療開始後発熱は認めず、炎症反応、呼吸状態も改善傾向を示し、30日には抜管した。9月2日、入院時の喀痰培養でレジオネラ属菌が検出されたため、MEPMを中止しCPFX、EM(1,200mg/日)に変更。その後の経過は良好で9月28日に退院となった。患者は、喫煙および飲酒歴はなく、高血圧があり、1993(平成5)年頃より慢性腎不全を有していた。園芸が趣味で、A病院入院一週間前にも、畑仕事をしていた。
喀痰はスプタザイム(極東)で処理、GVPC培地(極東)に接種、培養3日目に集落を認め、PCRおよびDDHレジオネラ(極東)でLegionella longbeachae と同定した。患者の協力により、9月21日、庭土1検体および腐葉土1検体、10月4日、庭土8検体および腐葉土3検体について検査した。庭土および腐葉土25gに滅菌水225mlを加え、よく攪拌後、30分静置後、上澄を2重にした滅菌ガーゼで濾過、濾液を×5,600g、30分間遠心、沈殿物を滅菌水1mlに浮遊、0.2M塩化カリウム液、pH 2.2を等量加え原液とした。原液を滅菌水で10、100、1,000倍に希釈、原液、10〜1,000倍希釈液各0.1mlを分離培地に塗抹、35℃、1週間培養した。分離は、9月21日、GVPC培地、10月4日、MWYおよびBCYE- α培地(Oxoid)を使用した。9月21日、庭土からL. longbeachae (100cfu/100g)、腐葉土からL. spiritensis (100cfu/100g)が分離された。10月4日の合計11検体はすべて陰性であった。
喀痰由来と庭土由来のL. longbeachae 分離株をパルスフィールド・ゲル電気泳動法(国立感染症研究所編、病原体検査マニュアル、2003)、およびRandom Amplified Polymorphic DNA-PCR法(Ready-To-Go RAPD analysis Kit, Amersham Biosciences)で遺伝子型別を実施したが、両株はいずれの方法でも異なっていた。
庭土または腐葉土からの感染が疑われたが、患者および庭土から分離できたL. longbeachae が1株ずつであり、遺伝子型が異なっていたため、感染源を特定できなかった。今回、庭土からも喀痰と同様にL. longbeachae が分離されたが、感染源としては確認できなかった。10月4日の庭土および腐葉土からレジオネラ属菌が分離できなかったことから、環境での本菌の発育に気温が大きく影響すると思われる。
神戸市環境保健研究所 田中 忍 貫名正文
神戸市立中央市民病院 江藤正明 三木寛二