神奈川県域(横浜市、川崎市を除く)での流行性耳下腺炎発生状況は、2004年第22週まで定点当たり患者報告数1.0未満の低値で推移していたが、第23週(定点当たり1.15)〜第29週(1.51)をピークとして第31週(1.38)まで定点当たり1.0以上であった。その後、第43週(1.11)に再び1.0を超え、以降、2005年第21週(1.19)まで1.0を超える週が多く推移した。2005年第22週より患者数が増加し(1.58)、第25週(2.28)以降第29週(2.63)現在まで定点当たり2.0を超え、2004年同時期の約2倍の報告数が続いている。報告患者の年齢は、第1週〜第29週現在まででは4歳(594)、5歳(590)、6歳(543)、7歳(403)、3歳(397)の順に多く、この年齢層で72%を占めている。比較的高熱を呈する傾向にあり、幼稚園、小学校での流行も発生している。
2005年5月10日〜7月12日までに採取された24名の流行性耳下腺炎患者(いずれも耳下腺の腫脹を認める)の咽頭ぬぐい液検体についてRD-18S、HeLa、Vero、HEp-2、GMK、LLC-MK2およびVero-E6細胞を用いてウイルス分離を実施した。Vero、LLC-MK2およびVero-E6細胞にはトリプシンを添加した維持培養液を使用した。ムンプスウイルスの同定は、直接蛍光抗体法(デンカ生研)により行った。
24検体中17検体よりムンプスウイルスを分離した(陰性5検体、検査中2検体)。Vero-E6細胞で17検体すべて、Vero細胞では14検体、LLC-MK2細胞では2検体から分離された。細胞変性効果(CPE)はいずれの細胞でも明瞭であり、トリプシンを添加しなかった維持培養液下でも15検体から分離された(Vero-E6細胞のみで実施)。ムンプスワクチン接種歴のある3名のうち、4年前と8年前に接種した2名からはムンプスウイルスが分離され、接種時期が不明で軽症であった4歳児では分離陰性であった。
また、ムンプスウイルスが分離された2名(1名は咽頭痛等上気道症状を呈する)からRD-18S、HeLa細胞にてエコーウイルス3型も分離された。
流行性耳下腺炎は、診断が容易であることや、ほとんどの場合がムンプスウイルスであることからウイルス分離検査が行われることは少ない。しかし、今回ワクチン接種歴があるにもかかわらず耳下腺腫脹を呈し、ムンプスウイルスが分離された症例や、上気道症状を呈する症例からエコーウイルスが分離されたことから、このような症例については種々のウイルスを対象とした分離検査が必要と思われる。
神奈川県衛生研究所・微生物部 齋藤隆行 尾上洋一 新川隆康
神奈川県感染症情報センター 中村廣志 折原直美
落合医院 片山文彦