2004/05シーズンは、広島県の特別養護老人ホームで発生した集団胃腸炎をはじめとして、高齢者施設におけるノロウイルス(NV)の集団感染が注目された。本稿では、北海道の高齢者施設におけるNV集団感染事例について、最近5シーズンの発生状況を報告する。
2000/01〜2004/05シーズンにかけて道内で発生し、当衛生研究所において患者検体の検査を行った集団胃腸炎事例は 396件(うち高齢者施設60件)であった。P1/P3、NV・SM82/NV81、COG1F/G1-SKRおよびCOG2F/G2-SKRの4組のプライマーセットを用いたRT-PCRにより、このうち350件(うち高齢者施設57件)の患者検体からNV遺伝子が検出された。
各流行シーズンにおけるNV検出事例数を、食中毒疑いと人→人感染疑い(以下、食中毒事件および感染症事例)に分けて表1に示した。高齢者施設で発生した事例57件のうち、食中毒事件は2004年2月に発生した1件のみであり、56件は保健所における疫学調査の結果から感染症事例であると考えられた。2003/04〜2004/05シーズンにかけて、高齢者施設における感染症事例数に顕著な増加が認められたが、感染症事例の総数も同様に増加していた。そこで、各シーズンの感染症事例における発生施設の割合を算出した(図1)。2003/04シーズンの感染症事例数は前シーズンの4倍以上に増加したが、発生施設の割合に大きな変化はなく、高齢者施設を含め、すべての施設においてほぼ同じ割合で事例数が増加していた。2004/05シーズンは高齢者施設のみ割合の増加が認められたが、これは2005年1月、特別養護老人ホームにおけるNV集団感染についての報道後、保健所への高齢者施設事例の報告数が一時的に増加(1月11日、12日の2日間で7件探知、すべてNV検出)したことも影響していると考えられた。これを考慮に入れると、2004/05シーズンも、他の施設に比べて高齢者施設における発生のみが大幅に増加したとは考えられなかった。
高齢者施設における事例から検出されたNVの遺伝子型を図2に示した。遺伝子型番号は、片山, IDWR 6(11): 14-19, 2004に従った。2000/01〜2002/03シーズンまでは、高齢者施設の事例数は1シーズン当たり3〜4件と少なく、検出されたNVの遺伝子型に偏りはみられなかった。しかし事例数の大幅な増加が見られた最近2シーズンでは、2003/04シーズンは85%、2004/05シーズンは91%の事例からGII/4型のNVが検出された。この2シーズンにおけるGII/4型の検出状況は発生施設によって明確な違いがあり、病院は高齢者施設と同様GII/4型の割合が非常に高く(それぞれ83、100%)、保育所・幼稚園および小学校は低かった(30%程度)。ポリメラーゼ領域およびキャプシド領域における系統樹解析の結果、北海道において2003年1月以降に検出されたGII/4型はすべて3つの新しいクラスターに分類された。それぞれをA(AY502023 Farmington Hills/2002/USA type、代表株:AB240181 Hokkaido/198/2004)、B(代表株:AB240183 Hokkaido/231/2004)、C(AY883096 GII.4/2004/NL type、代表株:AB240185 Hokkaido/286/2005)とすると、高齢者施設においては、2003/04シーズンはA(5件)、B(7件)、2004/05シーズンはA(2件)、B(12件)、C(16件)のGII/4型が原因となっていた。2003年以降、高齢者施設以外の施設や食中毒事例においても同様にこれら3タイプのGII/4型が検出されており、高齢者施設と他の事例において、原因となったGII/4型のタイプに違いは認められなかった。
北海道では、高齢者施設を含む施設内感染事例の把握数は最近2シーズンで大幅に増加したが、これが実際の発生数の増加を反映したものかどうかについては不明である。しかし、少なくとも最近2シーズンにNVによる施設内集団感染が多発したことは間違いなく、施設内へのNV持ち込みの防止と、感染者が発生した場合の感染拡大防止対策について、施設への周知徹底をはかる必要があるだろう。また、特に高齢者施設と病院における流行株であったGII/4型のNVの検出状況については、今後も注目していきたい。
北海道立衛生研究所・感染症センター
吉澄志磨 三好正浩 池田徹也 石田勢津子 奥井登代 岡野素彦 米川雅一