高齢者介護施設におけるノロウイルス感染対策

(Vol.26 p 332-334)

はじめに
昨年末〜今年の年始めにかけ、広島県内の介護老人福祉施設でノロウイルスの集団感染が発生した例* をはじめ、高齢者介護施設において感染症の発生や感染症による死亡者が相次ぐ事態が生じ、感染管理対策の充実の必要性が指摘されている。また、介護老人福祉施設は医師や看護師の常駐体制のない施設であるため、その特性も踏まえた対策の検討が必要である。

このような背景を踏まえ、厚生労働省では、高齢者介護施設等における感染対策に関する通知を発出し、さらに厚生労働科学特別研究事業として、「高齢者介護施設における感染管理のあり方に関する研究」を実施、実態調査の結果に基づく「高齢者介護施設における感染対策マニュアル」を作成した。

本稿では、これら通知、実態調査の結果およびマニュアルの概要を説明し、これらに基づいたノロウイルス感染対策について述べる。

*)この例においては、感染は食品由来ではないこと(人→人への感染によること)や、介護行為を介しての感染拡大の可能性があることが調査委員会(平成17年1月21日)において報告されている。

I.高齢者介護施設における感染対策に関する通知

1.「高齢者施設における感染性胃腸炎の発生・まん延防止策の徹底について」(平成17年1月10日付老発第011000号老健局計画課長通知、http://www.mhlw.go.jp/topics/2005/01/tp0111-1.html

2.「社会福祉施設等における感染症等発生時に係る報告について」(平成17年2月22日付健発 0222002号、薬発第 0222001号、雇児発第 0222001号、社援発第 0222002号、老発第 0222001号各局長通知、http://www.mhlw.go.jp/topics/kaigo/osirase/tp0628-1/付録1参照)

社会福祉施設等において、感染症等の発生について施設長が報告すべき下記の場合等を明記している。

 ・同一の感染症もしくは食中毒によるまたはそれらによると疑われる死亡者または重篤患者が1週間以内に2名以上発生した場合
 ・同一の感染症もしくは食中毒の患者またはそれらが疑われる者が10名以上または全利用者の半数以上発生した場合*
 ・上記に該当しない場合であっても、通常の発生動向を上回る感染症等の発生が疑われ、特に施設長が報告を必要と認めた場合
 *ある一時点で、10名以上あるいは、利用者の半数が発症あるいは疑われる場合であり、発症あるいは疑われる利用者の積算数ではない。

各施設においては、まずこれらの通知の内容を再度確認し、その上で以下に示す研究報告書と併せ、対応していただきたい。

II.実態調査

(1)調査方法等

 ○調査対象:介護老人福祉施設 5,419施設(平成17年1月現在、WAM-NET事業者情報に登録されている全施設)
 ○調査方法:質問紙を用いたアンケート調査(郵送により配布・回収)
 ○調査項目:施設属性、感染管理体制、感染対策の実施状況、職員の健康管理
 ○調査実施時期:平成17年2月〜3月
 ○回収率:対象5,419施設(うち廃止2施設)、回収数1,904施設、回収率は35.1%

(2)結果の概要

1)施設の感染管理体制について:施設内における感染管理に関する委員会については、67.8%で設置されており、感染対策に関するマニュアルは91.5%で作成されていた。また、施設内で感染管理に関する研修を実施、または施設内の会議等で周知されているのは85.1%であった。

また、施設内で感染対策担当職員を定めているのは、77.3%で、そのうち看護職員が80.4%を占めていた。 さらに、感染症などの疑いがある場合に施設内で報告の取り決めがある施設は82.4%、外部へ相談・連絡する取り決めがある施設は85.4%であった。

2)感染対策の実施状況について

 ●入所者1人ごとの手洗い・手指消毒と手袋交換:入所者1人ごとに手洗いが行われているケアとしては、排泄物・嘔吐物の処理が79.8%、おむつ交換が61.9%の施設で実施されており、食事介助においては33.6%であった。

入所者1人ごとに手袋交換をすることが定められているケアとしては、排泄物・嘔吐物の処理が86.8%の施設であったが、おむつ交換は59.2%であった。

 ●手洗い・手指消毒の方法(複数回答):おむつ交換および排泄物・嘔吐物の処理においては、「流水と石鹸で手洗い」が各々64.3%、76.7%、「擦式消毒用アルコール製剤を用いた手指消毒」が73.4%、68.9%であり、「流水で手洗いのみ」は 2.9%、 1.2%であった。一方、食事介助においては、「流水と石鹸で手洗い」が79.0%であり、「擦式消毒用アルコール製剤を用いた手指消毒」は47.5%、「流水で手洗いのみ」3.9%であった。

 ●おむつ交換:おむつ交換を定時で一斉に行っている(定時交換)施設は、29.9%であった。また、おむつ交換車を利用している施設は52.2%で、そのうちおむつ交換車の消毒については、「毎日消毒している」「毎日ではないが週に1回以上消毒している」が各々31.2%で、「消毒していない」が24.0%もあった。また、交換したおむつの処理については、「ビニール袋に入れて廃棄場所にある容器まで持っていく」「ビニール袋に入れておむつ交換車に廃棄」が各々37.9%、「そのままおむつ交換車に廃棄」が14.3%であった。

 ●食事に関する衛生管理:食事の調理については、「施設内で調理担当職員が調理」が54.3%であり、「外部委託(施設内で調理)」42.5%であった。

施設内で施設職員(調理担当職員または介護職員)が調理していると回答した1,306施設のうち、調理、提供に関する衛生管理マニュアルを作成しているのは76.3%である一方、作成していない施設が19.2%あった。

 ●感染症の集団発生の経験(複数回答):今までに集団発生した感染症については、疥癬39.9%、インフルエンザ28.0%、感染性胃腸炎(ノロウイルス)が17.3%であった。

III.マニュアルについて

マニュアルにおいては「高齢者介護施設と感染対策」、「高齢者介護施設における感染管理体制」、「平常時の衛生管理」、「感染症発生時の対処法」()および「個別の感染対策」について具体的に示している。厚生労働省のホームページから閲覧可能(http://www.mhlw.go.jp/topics/kaigo/osirase/tp0628-1/index.html)である。

また、「ノロウイルスに関するQ&A」(http://www.mhlw.go.jp/topics/syokuchu/kanren/yobou/040204-1.html)も参考にされたい。

IV.高齢者介護施設におけるノロウイルス感染対策

ここまで述べてきたように、ノロウイルス感染対策においても、まずは施設内における感染管理対策を講じ、「入所者1人のケアごとに適切な手洗い」を実施することが基本となる。特にノロウイルスにおいては、消毒用エタノールはあまり効果がないとの報告もあるため、擦式消毒用アルコール製剤を用いた手指消毒のみの方法は、とるべきではない。

また、調理・食品に関しては食品の調理や取り扱いに関する関連通知(「大規模食中毒対策等について」(平成9年3月24日付衛食第85号衛生局長通知)の別添「大量調理施設衛生管理マニュアル」(http://www.pref.ibaraki.jp/bukyoku/hoken/shofuku/syomu/syoku-ei/manual1.pdf)や「中小規模調理施設における衛生管理の徹底について」(平成9年6月30日付衛食第 201号生活衛生局食品保健課長通知、http://www.infonavi.co.jp/~databox/syoku/syo_hiroba/eisei/kanren_data/kanren_08.doc)を確認し、対応することが必要である。

職員を含む外来者からの感染も想定されることから、職員の健康管理や地域における流行時には外来者への注意喚起も重要である。

その上で、感染が発生、あるいは疑われる場合には、迅速に報告・相談等の対応をし、二次感染を防止するように努めていただきたい。

配置医師、協力病院の医師、地域の中核病院の感染管理担当者の医師や看護師等と日頃から連携をとることが求められる。その他、職員への周知や家族への情報提供も重要である。

これから冬場を迎えるにあたり、本稿で紹介したマニュアル等を元に各施設における実情を考慮した独自のマニュアルを策定し、感染予防および発生時の適切な措置を講じていただくことをお願いしたい。

厚生労働省老健局計画課 石原美和

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