わが国は、2004(平成16)年輸入食品監視統計によると、東南アジアや中国、韓国等から二枚貝は89,352トン、エビ類は 134,669トンと膨大な量を輸入している。これら輸入生鮮魚介類のウイルス検査は、輸出国ならびにわが国においてほとんど行われていないのが現状である。そこで、これらの地域から輸入された魚介類のノロウイルス(NV)汚染状況を調査し、検出されたNVについて分子疫学的解析を行った。
材料と方法
2004年6月〜2005年2月の間に市場に搬入された輸入二枚貝137件、およびエビ類9件を用いた。貝類は中腸腺を、エビ類は腸管を材料とし、超遠心による濃縮後、RNAを抽出し、DNase I処理後、ランダムプライマー、SuperScript IIを用いてcDNAを合成した。NV遺伝子の検出は、影山らのリアルタイムPCRおよびRT-PCRを用いて行った1)。陽性例については、ダイレクトシークエンス法でキャプシド領域の塩基配列を決定し、遺伝子型別を行った2)。
結果および考察
輸入生鮮魚介類 146件中37例(25%)からNVが検出された。種類別のNV検出率は、ブラックタイガー50%(4/8)、タイラギ38%(3/8)、ハマグリ34%(17/50)、アカガイ17%(13/77)であった。国別では、北朝鮮産、インドネシア産、フィリピン産、中国産および韓国産からNVが検出され、ロシア産、カナダ産からは検出されなかった(表1)。月別の検出状況は表2のとおりで、6月〜8月の間に採取した検体からウイルスは検出されず、9月からNVが検出され、11月〜1月では検出率が40%〜65%と高く、寒冷期における魚介類のウイルス汚染が高率であった。
輸入生鮮魚介類から検出されたNVは、genogroup (G) IとGIIがそれぞれ21例で、そのうちGIとGIIの重複例が5例認められた。検出されたGIIの遺伝子型は7種類で、GII/6(Miami)型、GII/4(Lordsdale)型、GII/1(Hawaii)型、GII/12(SaitamaU1)型で全体の80%を占めていた。GIは4種類で、GI/11(SaitamaKU8)型が多かった(表3)。輸入貝から検出された遺伝子型[GII/6型、GII/4型、GII/1型、GII/2型、およびGI/3(DesertShield)型]の株と塩基配列が 100%一致する株が、同一シーズンの愛媛県における集団発生事例や散発例からも検出された。
また、国内で検出されていない遺伝子型の株(C-41、C-36:AY641760類似株)が中国産アカガイから検出された。これらのことは、輸入生鮮魚介類がNVを国内へ持ち込むVehicleの1つであることを示唆している。今後も輸入生鮮魚介類のNV汚染状況調査と遺伝子解析を引き続き実施していく必要があると考えられた。
ハマグリやアカガイ等の輸入魚介類のNV汚染度が高く、これらの食品による食中毒の発生防止には、十分な加熱調理が重要である。
本研究は、厚生労働科学研究費補助金「ウイルス性食中毒の予防に関する研究」により行われた。
文 献
1) Kageyama T et al., J Clin Microbiol 41: 1548-1557, 2003
2)片山和彦、IDWR 6(11): 14-19, 2004
愛媛県立衛生環境研究所
山下育孝 豊嶋千俊 近藤玲子 大瀬戸光明 井上博雄
静岡県環境衛生科学研究所 杉枝正明
神奈川県衛生研究所 古屋由美子
千葉市環境保健研究所 田中俊光
国立感染症研究所 秋山美穂 愛木智香子 西尾 治