宮崎県南部(事例1)と県北部(事例2)の2施設において、同時期にサポウイルス(SV)による集団感染症事例が発生した。原因ウイルスの系統解析と発症者の便中へのSVの排泄期間に関する調査を管轄保健所の協力のもとに実施したので報告する。
事例の概要
事例1:2005(平成17)年5月11日〜6月13日にかけて県南部の小学校で発生した。管轄保健所では患者の定義を嘔吐や下痢の症状があり欠席したものとして調査を行い、患者数/全校生徒数は86/531名で、各学年の患者数/生徒数は1年生で2/85名、2年生で12/89名、3年生で11/83名、4年生で8/84名、5年生で36/106名、6年生で17/81名であった。主な臨床症状は嘔吐(27名)、発熱(22名)、下痢(16名)で、発熱は37.2〜37.5℃にとどまり、38℃以上の者は1名で、ノロウイルスによる集団発生例に比べて全般的に症状の軽い傾向がみられた。初発患者は5年生の女子で、11日から腹痛・下痢・嘔吐などの症状を示し、12日に教室で嘔吐した後、発熱が37.8℃あったために早退した。この患者は13日には熱も下がり登校しているが、17日まで下痢が持続していた。13日に5年生全員が同じフロアーで握手など接触する機会の多い英語の授業を受けていたことや、5年生と6年生は同じフロアーの教室を使用し、さらに、同じフロアーの多目的室や図書室も共有しており、これらのことが5年生と6年生に多くの患者のみられた要因と思われる。5年生担任教師と英語専任教師も下痢を発症した。また、比較的長期間にわたって新規患者の発生した原因は、家庭内の兄弟姉妹間の感染によって学年を越えて感染が持続的に拡がったためと思われた。
事例2:2005(平成17)年5月11日〜5月23日にかけて県北部の中学・高校生を対象とした知的障害者厚生関連施設で発生した。発症者数/入園者数は 20/44名で、主な臨床症状は下痢(14名)、嘔吐(7名)であった。発熱は1名のみでみられ(39.9℃)、この患者は下痢、嘔吐の症状を呈していた。介護職員にも下痢・嘔吐等を呈した者が確認されたが、調理従事者には有症者はなく、SVも検出されなかった。患者の発生状況や食品の調査等から感染症事例として対応された。
SVの系統解析
SVは、ウイルス性下痢症診断マニュアルに従い、SV-F11とSV-R1プライマーを用いてRT-PCR(First PCR)法で検出した。一部の陽性例について、ダイレクトシークエンス法で塩基配列を決定し、BLASTを用いて相同性検索を行った。その結果、事例1で検出されたSVの3株で、キャプシド領域の715塩基配列が100%一致し、Hu/Moscow/2228/2003/RF類似株であった。事例2のSVの5株では、718塩基配列が100%一致し、HuCV/Potsdam/2000/DE類似株であった。当初、同時期に発生したため、今回の2事例に疫学的に関連性があるのではと考えられたが、NJ法による系統樹解析の結果、遺伝距離から検出されたSVの由来は互いに異なることが判明した(図1)。
患者糞便中のSV遺伝子の経時的検出
事例1では、初回検査で発症者34名中7名からSVが検出され、これら7名からはそれぞれ発症後4日、5日、14日、17日、19日、22日、24日後までSVが検出された(表1)。事例2では、初回検査で発症者18名中13名からSVが検出され、発症後15日後に1名、25日後および28日後にそれぞれ1名の患者からSVが検出された(表2)。
ノロウイルスやエンテロウイルスによる胃腸炎患者では糞便中にウイルスが数週間排泄されることが報告されているが、SVによる急性胃腸炎患者における糞便中のウイルスの排泄期間についての報告はほとんどみられない。今回の調査により、発症者が回復後数日〜数週間にわたってSVを排出していることが確認された。SV感染症の集団発生においてもウイルスの便中への持続排泄者の適切な衛生対策が二次感染防止のうえで重要との判断にもとづき、管轄保健所では、関係機関と連携して活動したことで、これらの事例に効果的に対応することができた。
宮崎県衛生環境研究所・微生物部
岩切 章 元明秀成 山本正悟 平崎勝之 鈴木 泉
宮崎県日南保健所 木添茂子
宮崎県延岡保健所 三笠美惠子
千葉県衛生研究所 岡田峰幸