ノロウイルス流行期におけるヒトC群ロタウイルス集団胃腸炎事例−大阪府

(Vol.26 p 340-340)

大阪府では2005年5月、昨年と同様に小学校を中心としたノロウイルスによる集団胃腸炎が多発したが、この頃、ヒトC群ロタウイルスによる集団発生が認められたので報告する。

5月20日大阪府内の小学校2年生の1クラスで胃腸炎の集団発生が報告され、22日までに有症者便6検体が搬入された。その時点での発症者11名の臨床症状(表1)は嘔吐が10人で、残りの1名は嘔気を認め、下痢8人、発熱4人であった。このクラスでは5月16日〜23日にかけて断続的に17人の有症状者があり、有症期間は1〜5日間とばらつきがみられた。医療機関への受診者は7人であった。1クラスに集中した発生であり、センター形式の給食で配食を受けている他の小学校等で発生がないことから人→人感染の集団発生とした。また、家族、教職員への伝播は認められず、25日以降は新規発症者もなく終息した。

大阪府管内では5月12〜20日までに6件のノロウイルス集団発生があり、小児間で流行状況にあったことと、小児における臨床症状として嘔吐が主症状であったことなどから、ノロウイルス疑いで検査を開始した。しかし、ポリメラーゼ、キャプシドの両領域に対するRT-PCR(NV81/NV82,SM82、Yuri22F/RSおよびG1SKF/R 、G2SKF/R)で陰性であった。患者年齢が小学校の低学年であったことから、ロタウイルスA群のELISA (ロタクロン、TFB)を実施したがこれも陰性であった。検体の上清2〜3mlを採取し、3検体を1試料として超遠心後、電子顕微鏡にてロタウイルス様粒子(完全粒子はほとんど認められなかった)が観察された。そこで、C群ロタウイルスVP6を増幅するRT-PCRを実施したところ1)、6検体すべてに特異バンドの増幅を認めた。さらに、VP7遺伝子をRT-PCRで増幅した後2)、塩基配列を解析した結果、1998年以降に全国各地で検出されているヒトC群ロタウイルスの系統に属しており、2004年12月に岡山県内の保健福祉施設における集団発生由来株(IASR 26: 100-101, 2005参照)と配列が完全に一致していた。

ノロウイルスの流行下では連日ノロウイルスを疑う事例が発生するが、このようにロタウイルスによる事例も発生する。今回のようにノロウイルス以外の検査が必要となった場合、原因不明の状態は患者、父兄をはじめ学校関係者に過剰な不安や負担を与えてしまう可能性がある。また、同時期にロタウイルスA群、サポウイルスの集団発生も経験し、ノロウイルス以外の検査体制を整えておくことが必要であると再認識した。その1つとして電子顕微鏡による検索が有効であった。

 文 献
1) Gouvea et al., J Clin Microbiol 29(3): 519-523, 1991
2)葛谷ら,感染症学雑誌 77(2): 53-59, 2003
3) Kuzuya et al., Jpn J Infect Dis 58(4): 255-257, 2005

大阪府立公衆衛生研究所・感染症部 左近直美 山崎謙治 依田知子 大竹 徹
岡山県環境保健センター・ウイルス科 葛谷光隆

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