2005年10月下旬に広島市内の小児科医院を受診した患者からA香港型ウイルスが分離されたので概要を報告する。
患者は広島市内に在住の10歳6カ月齢の男児で、10月22日に38.3℃の発熱を伴う上気道炎を発症したため10月24日に小児科医院を受診し、その際に実施されたインフルエンザ迅速診断キットでA型が陽性と判定されたことから、A型インフルエンザの可能性が疑われた。なお、患者本人および家族には最近の海外渡航歴はなかった。
広島県保健環境センターにおいて、確定診断のためのウイルス学的検査を実施した。患者の受診時に採取された鼻腔吸引液からRNAを抽出し、インフルエンザウイルスのHA遺伝子、あるいはNA遺伝子の(亜)型特異的なプライマーを用いてRT-PCR検査を実施した結果、インフルエンザA/H3N2型ウイルスが検出された。併せて、患者の鼻腔吸引液をLLC-MK2細胞とMDCK細胞に接種したところ、LLC-MK2細胞では接種後4日目に、MDCK細胞では接種後8日目に著明なCPEが認められた。それらの培養上清についてHA価を測定したところ、0.75%モルモット赤血球では4HAの凝集が認められたが、0.5%ニワトリ赤血球と0.5%七面鳥赤血球では凝集は認められなかった。そこでさらに各培養細胞で継代したところ、MDCK細胞2代目で、いずれの血球でも8HAの凝集が認められたので、この培養上清を用いてHI試験を行った。
HI試験は国立感染症研究所から配布された2005/06シーズン用の抗血清と、参考のために、2004/05シーズン用抗血清の抗A/Wyoming/03/2003(H3N2)血清、2003/04シーズン用抗血清の抗A/Panama/2007/99(H3N2)血清および抗A/Kumamoto(熊本)/102/2002(H3N2)血清を用い、0.75%モルモット赤血球を用いて実施した。その結果、H3N2型に対する抗血清のうち、抗A/New York/55/2004血清に対しては80(ホモ価 1,280)、抗A/Wyoming/03/2003血清に対しては160(同 1,280)、抗A/Panama/2007/99血清に対しては<10(同 1,280)、抗A/Kumamoto(熊本)/102/2002血清に対しては160(同 2,560)のHI価を示した。なお、抗A/New Caledonia/20/99(H1N1)血清、抗B/Shanghai(上海)/361/2002血清、抗B/Brisbane/32/2002血清に対しては、いずれも<10であった。
AH3型ウイルスに関しては、本年8月以降をみても複数の都道府県でウイルスが分離されており、分離株の抗原性状についてIASR(http://idsc.nih.go.jp/iasr/rapid/index-kv.html)に報告されている。それらの報告を見ると、8月に奈良県で分離された株、9月に神戸市あるいは三重県で分離された株は、いずれもA/Wyoming/03/2003類似株であり、一方で8月に名古屋市で分離された株は、A/New York/55/2004類似株であったと報告されている。ところが今回我々が分離した株は、HI試験の結果を見る限り、A/New York/55/2004株ともA/Wyoming/03/2003株とも類似しているとは言い難く、それら他県で分離された株とは抗原性状に若干の違いがあるのかもしれない。今後、この株に類似したウイルスが広島県内で流行していくのか否かも含め、今後のインフルエンザの動向に注意していく必要があると考えている。
広島県保健環境センター・微生物第二部
高尾信一 島津幸枝 桑山 勝 福田伸治 宮崎佳都夫
原小児科 原 三千丸