海外渡航者のコレラ集積例、2005年

(Vol.27 p 7-8:2006年1月号)

従来、コレラの侵淫地域である東南アジア地域への旅行者から、コレラ患者の発生が多く認められている。2005(平成17)年には次に述べる二つの集積例が認められた。

インドネシア渡航者におけるコレラ患者の集積
2005(平成17)年第19および第20週(5月9〜22日)に、インドネシアから帰国後に発病したコレラ症例(無症候感染者を含む)が、総計8名、感染症発生動向調査へ報告があった。厚生労働省健康局結核感染症課長は5月27日、感染症法第63条の2に基づき、これらの患者に対する調査を関係7自治体へ指示した。調査結果は6月3日までに回答を得た。

症例の性別は、男性7名、女性1名、年齢中央値は44歳(範囲32〜65歳)であった。症状は下痢7(うち水様下痢4)、嘔吐2、腎不全1であり、無症候感染者も1名認められた。患者の発病日の時間推移を図1に示す。発病日の中央値は5月8日(範囲5〜12日)であった。宿泊地は、バリ島のみが5名、バリ島およびジャワ島の両方に宿泊した者が3名であった。これら8名は、いずれもバリ島では、1カ所のホテルに宿泊していた。関係する団体旅行は2グループ3名であり、残り5名は単独行動、または家族での行動であった。同行者を含む接触者の検便では、ここに示したほか新たな症例は見つかっていない。

質問票により聞き取った、コレラ感染と関係する可能性のあるリスク行動については、生野菜の喫食6、ホテルのプールで遊泳5、屋台の食べ物の喫食3、氷の喫食3(ミネラルウォーターで作った氷1を含む)、果物を皮付きのまま喫食1であった。H2拮抗薬、プロトンポンプ拮抗薬の服用を含め、医薬品を常時使用する者は認められなかった。

患者から検出したコレラ菌はすべてVibrio cholerae O1:エルトール小川型、コレラ毒素産生性あるいはコレラ毒素産生遺伝子が確認された[詳細はIDWR 7(23): 5-6, 2005参照]。

フィリピン渡航者におけるコレラ患者の集積
2005(平成17)年第38および第39週(9月19〜10月2日)に、フィリピンから帰国後に発病したコレラ患者が総計6例、関係する3自治体より報告された。

患者の性別はいずれも男性、年齢中央値は48歳(範囲40〜68歳)であった。症状は下痢6(うち水様下痢1)、腹痛2、食欲低下および脱水+腎不全各1であった。患者の発病日の時間推移を図2に示す。発病日の中央値は9月24日(範囲10〜25日)であった。宿泊地が判明している5名については、いずれもマニラ市内であったが、特定のホテルではなかった。関係する団体旅行は2グループ4名であり、1名は単独行動、残り1名は不明であった。同行者が不明の者を除き、同行者を含む接触者の検便では、ここに示したほか新たな症例は見つかっていない。

報告のあった、コレラ感染と関係する可能性のあるリスク行動については、日本料理店で刺身を喫食したという1名以外不明であった。このほか、脱水・腎不全を起こした1名には、胃摘出術の既往が認められた。患者から検出したコレラ菌はすべてV. cholerae O1:小川型、コレラ毒素産生性あるいはコレラ毒素産生遺伝子が確認されていた。生物型については4例がエルトール型、残りは不明であった。

考 察
2005(平成17)年に発生の認められた、海外渡航者におけるコレラ患者集積例について記述疫学を行った。いずれの集積例においても、患者は現地または帰国後数日以内に発病しており、海外での感染が考えられた。

感染と関係する可能性のあるリスク行動については、生野菜、屋台の食べ物、氷、ならびに刺身など、従来危険性が指摘されてきた食物の喫食が示唆された。これらの点について、海外渡航者に対し継続的に注意喚起する必要があろう。また、本研究ではすべて対照群との比較を行っておらず、オッズ比などを用いた定量的な評価はできなかったが、上記のほかに、プール利用についても感染と関連する可能性を考えておくべきことが示唆された。

上記いずれの集積例においても、関係する自治体は日本全国にまたがり、このような集積は一自治体だけでは探知が困難であり、広域的に発生を監視する必要があると考えられる。このことから、自治体および厚生労働本省、検疫所ならびに国立感染症研究所・感染症情報センター等の緊密な連係が極めて重要と考えられた。

国立感染症研究所・感染症情報センター
太田正樹 ポール・キツタニ 多田有希 大山卓昭

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