新興感染症流行の病原体保有宿主としてのコウモリ

(Vol.27 p 17-17:2006年1月号)

最近中国の研究者によって、中国国内4カ所において捕獲された合計9種類、408匹のコウモリの血液、糞便、咽頭検体が採取され、3種類のキクガシラコウモリにおいて、抗SARSコロナウイルス(SARS-CoV)抗体の保有率が高いこと(28〜71%)が確認された。これは、同種がSARS-CoVの自然宿主であることを示唆する。また、コウモリから検出されたウイルスは、ヒトSARS-CoVの塩基配列と92%の相同性をもつことが示された。

2003年のSARS-CoVの出現以来、研究者はSARS-CoVの感染源を探し続けてきた。SARS-CoVは中国の市場のハクビシンから発見されたが、その後の研究によって、ハクビシンはSARS-CoVの感染により症状を示すことが確認された。しかし、特定のハクビシン以外からはSARS-CoVが検出されなかったことは、ハクビシンはSARS-CoVの自然宿主ではないことを示唆する。

ヒトは、コウモリによって咬まれたり、コウモリの唾液に触れることによって直接に(ヨーロッパコウモリ・リッサウイルス)、あるいはコウモリが噛んだ食べ物などを摂取することによって(ニパウイルス)感染する可能性がある。より可能性の高い感染経路として、コウモリと人間双方との接触がある動物を介する経路がある。コウモリが生息する地域で家畜を飼育していたり、他の動物も扱っている市場でコウモリを売っている場合など、コウモリが保有する病原体が他の動物へ伝播している可能性がある。SARS-CoVにおいては、ハクビシンがコウモリからヒトへのウイルス伝播を媒介した可能性も考えられる。

キクガシラコウモリはオーストラリアからヨーロッパまで広く分布しているが、中国における研究で捕獲された種はヨーロッパには土着していない。しかし、ヨーロッパ以外に分布するコウモリがヨーロッパに入ってくることによって(コウモリ自身の移動や、伝統的薬剤の材料としての輸入など)、ヨーロッパに分布するコウモリへ新たな感染症がもたらされる可能性がある。

(Eurosurveillance Weekly, 10, Issue 45, 2005)

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