アイチウイルスが検出された食中毒事例−大分県

(Vol.27 p13-13:2006年1月号)

2005(平成17)年10月17日に別府県民保健福祉センターへ、食中毒様症状を起こしているグループがあるとの通報があった。調査の結果、別府市内の飲食店で10月12日に食事をした23歳〜68歳の1グループ21名中16名に、症状があることが判明した。症状は、嘔吐、下痢、発熱、腹痛であり、平均潜伏時間は43時間であった。提供された食事の内容は、おぼろ豆腐、カキ塩辛、栗銀杏、かもたたき、さんま寿司、刺身、リンゴ、釜グラタン、白金豚トマト煮、うなぎ白焼き赤ワインソース、天ぷら、イクラ飯などであった。

患者の便7件についてノロウイルスおよびサポウイルス、アストロウイルス、アイチウイルスのRT-PCR検査を実施した。検査は、ウイルス性下痢症診断マニュアル第3版(国立感染症研究所ウイルス第2部他、編集・発行)に沿って実施した。RT-PCRで陽性となった場合は、検出ウイルスの遺伝子配列を調べ、ノロウイルスについては系統樹解析、その他のウイルスについてはBLASTによる相同性検索により陽性を確認した。検査結果はノロウイルスGI/3およびアイチウイルスを4件ずつから検出し、ノロウイルスGII/6を3件から、ノロウイルスGII/3、ノロウイルスGII/4、ノロウイルスGII/12をそれぞれ1件ずつから検出した。2種類または3種類のウイルスが検出された検体は、7件中6件であった。なお、細菌検査も行ったが既知の食中毒起因菌は検出されなかった。飲食店従業員の便8件のウイルス検査を行ったが、陰性であった。食品の残品は無かったが、カキの塩辛と同一の製品()があったので、ノロウイルスおよびアイチウイルスの検査を実施したところ、アイチウイルスが検出された。

飲食店従業員から原因ウイルスが検出されなかったので、食品由来による食中毒と推定された。ノロウイルスで複数の遺伝子型のウイルスが検出される集団胃腸炎やアイチウイルスが検出される胃腸炎は、生カキなどの2枚貝を食べた事例が多い。検査したカキの塩辛は、カキの中腸腺を含む剥き身全体を塩辛にしたものを冷凍保存したものであった。ノロウイルスは塩分や低いpH、低温には強いので、塩辛中で感染性を保つと考えられる。今回、塩辛からノロウイルスが検出されなかったのは、ウイルス量が検出限界以下であったか、製品個体の違いによると考えられた。

当センターでは2003年より九州地域の衛生研究所の共同研究としてアイチウイルスの検査を実施しているが、検出したのは2004年3月に感染性胃腸炎の散発例からの1例のみである。検出例の少ないウイルスであるが、今回の事例を通じてあらためて検査の必要性が感じられた。

大分県衛生環境研究センター 小河正雄 田代潔子 吉用省三 内山静夫
別府県民保健福祉センター・衛生課

今月の表紙へ戻る


IASRのホームページに戻る
Return to the IASR HomePage(English)



ホームへ戻る