1.集団事例の概要
2005年9月12日、西彼保健所に同管内所在の小児科医院より管内A小学校でインフルエンザ様疾患の集団発生が疑われるとの連絡が入った。保健所の担当者が調査を行ったところ、2学級の57名中34名が罹患しており、24名が欠席していた。欠席した児童の症状は、咳、咽頭発赤等の呼吸器症状や、倦怠感および38〜39℃の発熱を呈しており、インフルエンザ様疾患が強く疑われた。早速、学校および近くの小児科医院等の協力を得て、うがい液6検体を採取し、当所へ搬入し検査を実施した。
2.患者からのウイルス検索
非流行期の発生であり、鳥インフルエンザ感染の疑いもあったため、まず、QIAamp Viral RNA Mini kit(QIAGEN) を用いて、検体からRNAを抽出し、AH1、AH3、AH5に特異的なプライマーを用いてRT-PCRを実施したところ、うがい液6検体中1検体から AH3型の遺伝子が検出された。さらに、その同6検体をMDCKおよびCaCo-2細胞に接種したところ、1代目ではCPEは確認できなかったが、2代目でAH3の遺伝子が検出された1検体のみCaCo-2細胞からCPEが確認された。
この培養上清について0.75%モルモット血球で凝集活性を確認したところ4HA価であったため、3代目まで継代を続けた。その後、HA試験を実施したところ、16HAが確認されたため国立感染症研究所から配布された2004/05シーズンのインフルエンザ検査キットを用いてHI試験を実施した。
その結果、分離されたウイルスは抗A/Moscow/13/98(ホモ価 1,280)、抗A/New Caledonia/20/99(同 160)に対してはHI価<10であったが、抗A/Wyoming/03/2003(同 640)はHI価640であった。参考までに実施した抗B/Brisbane/32/2002(同 2,560)、抗B/Johannesburg/5/99(同 640)はすべて<10であった。以上の結果から今回分離されたウイルスはAH3型インフルエンザウイルスと同定した。
3.疫学的考察
疫学情報としては、児童およびその家族の海外渡航歴はないが、昨シーズンのインフルエンザワクチン接種歴では一部の児童が昨年11月および12月の2回接種を受けていた。今回の事例は、小学校の学級閉鎖のみであり、感染ルートについては明らかになっていない。また小学校全体や近所の中学校等での流行拡大は確認されなかった。
夏季に沖縄県と奈良県(IASR 26: 243-244 & 244-245, 2005参照)でAH3型インフルエンザの流行が報告されていることからも、今後、インフルエンザの発生動向については一年を通して監視を行うことが重要であると思われた。
長崎県衛生公害研究所・衛生微生物科
平野 学 中村まき子 吉川 亮 原 健志