ノロウイルスによる食中毒事例−和歌山県

(Vol.27 p13-14:2006年1月号)

和歌山県田辺保健所管内の小学校で2005年11月23日を初発とし、給食喫食者105人中85人が下痢、嘔吐等の症状を示した。有症者の共通食は学校内の単独調理場で作られた給食であった。リアルタイムPCRにより有症者4人の検便から、いずれもノロウイルスgenogroup IIが検出された。発症時間は、23日の12時〜24日6時に87%(74人)が集中した一峰性の分布(22日正午を基点に24時間〜42時間後)を示した()。学校内では本件の患者発生前に類似症状を呈する生徒等の報告はなく、22日の昼給食喫食を原因とする食中毒であると断定した。有症状者で入院治療を要した者はなかった。

生徒および職員は給食メニューを完食し、食べ残しはなかった。ランチルームは大部屋と小部屋に分かれており、大部屋では3年〜6年、小部屋では1、2年が喫食した。大部屋の発症率91%、小部屋の発症率66%であった。調理人2人は無症状で、検便陰性であった。この2人はランチルームではなく調理場内で給食を食べていた。全食材、検食についてノロウイルス陰性で、遡り調査の結果、同一ロットが他の施設等にも納入されていたが、当該小学校以外には苦情なく、調理場は衛生上良好で、ふきとり検査の結果、ノロウイルス陰性であった。食器の取り扱いおよび洗浄方法などにも、衛生上問題はなかった。当日の加熱メニューはチャンポンであったが、調理中の温度は100℃を記録していた。

ランチルーム、手洗い場、生徒(給食当番)について、ランチルーム大部屋の発症率が高く、小部屋に比較して汚染度が高かった可能性が考えられる。給食を食べる前にふきんで机を拭いていたが、ふきん・手洗い場・給食当番に共通性はみられなかった。手洗い場のふきとり検査では汚染は確認されず、汚染源の特定はできなかった。なお症状のなかった児についても、検便は行っていないがノロウイルスに曝露しながら不顕性であった可能性もある。

再発と二次感染防止について、以下の8項目を徹底した。(1)校内を次亜塩素酸ナトリウムで消毒;(2)調理場では次亜塩素酸ナトリウムを含む洗剤を使用;(3)家庭では、調理者の手洗いおよび健康管理の徹底と高リスク食材(生カキ、生レバー等)は食事メニューから避けること;(4)嘔吐物や残飯の処理方法のマニュアル化;(5) 学校では、生徒の手洗いの徹底・手拭いタオルの取り扱い方法改善(給食を食べる前に使用する手拭いタオルをトイレの後も使用していたため);(6)ふきんは使用後消毒・専用の乾し場を設置して乾燥させること;(7)トイレと給食前の手洗い場を分けること;(8)その他、生徒が嘔吐もしくは下痢をした場合、教職員へ気軽に報告できるような環境作りを行うこと、である。

衛生環境上、良好である小学校給食において食中毒が発生し、汚染源を特定できなかったことは残念であり、再発防止対策が困難である。しかし、二次感染防止については、保健所への報告は家族内から有症状者14人(うち1人からノロウイルスを検出)に留まり、比較的狭い範囲で防疫できた。これには25日にノロウイルスを想定した手洗いと吐物・便処理のチラシを全家庭に配布し、26日にはPTAに対して説明会を行い、不安感の軽減に務め、見通しを情報開示したことが有効であったと考えられる。

和歌山県田辺保健所
坂田 貫 玉置敦子 塩地隆英 船木 明 山本康夫 森岡聖次
和歌山県環境衛生研究センター
仲 浩臣 寺杣文男 今井健二
白浜はまゆう病院 松尾晃次

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