2004年8月25日にハワイ旅行からの帰国者が細菌性赤痢を発症した。この患者が参加したハワイツアー同行者への問合せから、9月2日までに同様の症例がさらに7例存在することが確認された。また、同時期、上記症例以外にも感染症発生動向調査において、ハワイを推定感染地域とする細菌性赤痢症例が届出られ、9月8日までに計15例が確認された。一方、非公式なルートながら、米国でもハワイから本国への旅行者の細菌性赤痢が届けられていることが確認された。
感染症発生動向調査によると、2004年第35週に届出られた細菌性赤痢症例16症例中、2例についてハワイが推定感染地域とされたが、翌36週には30件の届出中13例(43%)がハワイを推定感染地域とする症例であった。しかし、37週以降ハワイを推定感染地域とする症例の届出はなされなかった(図1)。
確認された15例については、8月22日〜24日の期間にハワイ・ホノルル空港発のN航空の航空機に搭乗しており、すべての症例が一次感染者であり、二次感染者は確認されなかった。15例すべてが下痢を発症し、7例(47%)は腹痛、13例(87%)は発熱の症状を示した。3人(20%)が入院を要したが、死亡例はなかった。原因菌はすべてShigella sonnei であった。患者の居住地は、和歌山県、三重県、大阪府、千葉県、神奈川県、香川県、兵庫県および東京都であった。本事例の感染源・感染経路については、日米における調査結果を合わせて考えると、航空機機内食のサラダ(にんじん)が感染源であった可能性が高いと考えられた。
患者由来株および同時期に分離された海外渡航歴が無い患者由来株についてパルスフィールド・ゲル電気泳動法(PFGE)による解析を行った結果から、15例の患者株は、9株がh1パターンを示し、それとは1本バンドが異なるh2パターンを示す株が5株、また、h1パターンとは2本バンドが異なるh3パターンを示す株が1株であった(図2)。
本事例に関しては、米国でもハワイから本国への旅行者の細菌性赤痢症例が届出られており、パルスネットの関係機関に対しては9月2日に本事例の発生状況および分離株のPFGEパターンの画像が提供された。日本国内でのh1およびh2のパターンについては米国内での分離株が示す株のものと一致することが画像の交換で確認され、さらに、国立感染症研究所細菌第一部および米国CDC間でそれぞれの分離株を交換し、パターンが一致していることを確認した。
今回は非公式なルートによる米国との連携が、本事例の早期探知や早期調査、早期対応に非常に有益であった。今後、このような国際的な集団発生事例では、関係国との公式・非公式な連携による、迅速かつ適切な情報交換を強化するべきであろう。
国立感染症研究所
細菌第一部 寺嶋 淳 渡辺治雄
実地疫学専門家養成コース(FETP) 登坂直規 上野久美
感染症情報センター 中島一敏 Paul Kitsutani