介護を介しての感染拡大が推定された細菌性赤痢の集団発生−岩手県

(Vol.27 p 65-66:2006年3月号)

端緒:2005(平成17)年12月19日に盛岡保健所管内のA病院より、Shigella flexneri による細菌性赤痢の患者(症例1)の届出があり、保健所は調査を開始した。同日中に、症例1は感染症指定医療機関のB病院に転院した。また、数日前より血便を呈していた症例1の娘もB病院を受診し、疑似患者として届出がされた。

症例定義と積極的症例探査:症例定義を、「2005(平成17)年12月10日〜23日に症例1と接触した者で、下痢を呈した者(疑い例)、または疑い例でS. flexneri が便より分離された者(確定例)」とし、症例1の接触者18名(同居家族、親戚および症例1のケアマネージャー)について、聞き取り調査および検便を実施した。

症例の概要:積極的症例探査の結果、症例1の他に接触者2名からS. flexneri が分離され(確定例)、さらに疑い例2名の計5名が症例と確認された。男女比は1:4で、年齢は65〜94歳であった。5名全員が腹痛を伴う下痢を呈し、1名は血便および発熱も伴っていた。症例1を含め3名が同居家族であり、他の2名はそれぞれ別に生活をしていた。5名はいずれも無職であった。症例1が初発例で、その発症日は12月11日であり、その後に4名が発症していた(図1)。

症例5名の行動および発症状況を図2に示した。症例1〜3は同居家族で4人暮らしであった。症例1は認知症を患っており、普段から寝たり起きたりの生活をしていた。排便は便器とおむつを併用し、排便後の処理は家族が行っていたが、手袋は使用していなかった。症例1の発症前の食事は家族と同一のものであった。食品の細菌学的検査は行われなかった。症例1は12月11日に発病し、14日にA病院を受診後、入院となった。症例4は、13および14日に症例1の家を訪れており、症例1の介護、家の掃除を行い、入院時にも付き添いをしていた。症例5は、14日の入院時から17日まで、症例1に付き添っていた。いずれの症例も最近の海外渡航歴は無かった。

分離菌株S. flexneri 2aが症例1を含む3名から分離された。分離された菌株は、PCR法により、ipaH 遺伝子およびinvE 遺伝子の保有が確認された。また薬剤感受性試験(KB法)において、11薬剤中5薬剤に耐性を示す多剤耐性菌であった(ABPC、SM、TC、CP、STに耐性、CTX、KM、GM、CPFX、NA、FOMに感受性)。パルスフィールド・ゲル電気泳動法(制限酵素Xba I)では、同一パターンを示した。

考察:症例1〜3の集積については、症例1の介護時に症例2および3が感染した可能性が考えられた。症例2および3は症例1と同居しており、排便の介護を日常的にしており、二次感染の機会が十分にあったと考えられる。しかし、症例1の感染源および感染経路については不明であった。一方、症例1〜3の感染源が飲食物の可能性も考えられたが、共通の喫食歴があるもう1人の家族が発症しておらず検便が陰性であったこと、この事例の他に盛岡保健所管内を含め岩手県内から細菌性赤痢の届出が無かったことから、細菌学的検査が実施されていないものの、飲食物の赤痢菌汚染については否定的であると思われた。

症例4および5については、症例1からの二次感染と思われた。ともに症例1とは別の家で生活をしており、共通の喫食歴も無かった。症例1の発症後に、2名とも症例1の世話をしていることから、この時期に感染したものと思われた。

細菌性赤痢に限らず消化器感染症に被介護者が感染し下痢を呈した場合、介護者が二次感染する危険性も高まる。このような場合には、排便の介護時の手袋の着用や介護後の手洗いなどを、施設関係者はもとより、一般家庭に対しても普及啓発を強化する必要があると思われた。

岩手県環境保健研究センター
保健科学部 松舘宏樹 藤井伸一郎 佐藤 卓 高橋朱実 齋藤幸一 蛇口哲夫
検査部   岩渕香織 太田美香子 後藤 徹 田頭 滋 山本哲男
盛岡保健所医薬予防課
佐藤美津子 立花恵美子 森 隆司 鈴木英一
同衛生課   佐藤育夫 高橋憲雄

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