2006（平成18）年１月下旬にマレーシア、シンガポールを修学旅行で訪れた神戸市内の高校生６名およびその家族１名から、赤痢菌（Shigella sonnei I相）が検出された集団発生事例があったので、その概要を報告する。
１月31日（火）に神戸市内の医療機関から、市内在住の17歳男性の細菌性赤痢（S. sonnei I相）感染症発生届出があった。患者は市内の高校に通学している高校２年生で、１月26日から39℃台の発熱、下痢（泥状便）、腹痛等の症状を訴えて医療機関を受診しており、解熱剤、下痢止め等を処方され、抗菌薬の投与はなかったが１月28日には症状が消失していた。
また、患者は発症前の１月21日〜25日までマレーシア、シンガポールに修学旅行として渡航しており、その行程は、１月21日朝に関西国際空港より出国してシンガポール経由でマレーシアに入国し、クアラルンプール、マラッカ、ジョホールバル等に滞在した後、24日午前にシンガポールに移動し、24日の深夜にシンガポールを出国して25日早朝に関西国際空港に到着というものであった。
発症状況等から渡航先での感染が疑われたため、修学旅行に参加した同校の生徒２年生９クラス331名（初発患者を除く）、教職員16名、および添乗員等５名について検便を実施したところ、新たに生徒５名から赤痢菌（S. sonnei I相）が検出された。なお、健康調査の結果、６名の赤痢菌陽性者以外に下痢症状を呈した生徒は、旅行中11名、帰国後11名、計22名いたが、帰国時に検疫所で健康相談を受けた者はいなかった。教職員、添乗員等は症状もなく、菌も検出されなかった。
陽性の５名については、いずれも帰国当日の１月25日または翌26日から発熱（38〜39℃台）、下痢、腹痛等の症状を呈しており、うち２名は医療機関を受診していたが、それぞれインフルエンザおよび感冒と診断され、医療機関での検便は実施されていなかった。また保健所の調査時にはすでに全員症状は消失していた。
赤痢菌が検出された生徒６名は４クラスに分散しているが、いずれも同じホテルに宿泊しており、また食事については１月24日の昼食以外はすべて同じ施設を利用していた（１月24日昼食は班別自主散策により自由喫食）。ただし、食事内容についてはバイキング方式が多く、いずれの生徒も詳しい喫食内容を覚えていないことから、患者に共通の飲食物を特定することは困難であるが、生水、ジュース、カットフルーツ、サラダ、牛乳、アイスクリーム、おにぎり等が提供されていたことから、これらが感染源としての可能性を推測させるものであった。
患者６名は、陽性が判明した時点で受診勧奨、自宅の消毒および同居家族の健康調査と検便を行ったが、この時点で家族に症状を訴える者はなく、赤痢菌が検出される者もいなかった。
初発患者については、届出時（１月31日）に既に症状が消失していることもあり、再受診先の医療機関では抗菌薬が投与されず、１月31日、および２月６日に実施した連続２回の検便でも陰性であったことから、「病原体を保有しない」と確認された。しかしながら、経過観察として実施した２月13日（帰国後20日目）採取の検便で再び赤痢菌（S. sonnei I相）が検出された（２月16日判明）。なお、この期間中に症状の再発は認められていない。また、この生徒の父親が２月12日より発熱、下痢の症状を訴えて２月14日に医療機関を受診し、検便で２月18日に赤痢菌（S. sonnei I相）が検出された。父親は受診時に抗菌薬投与を受けており、結果判明時にはすでに症状は消失していた。
父親の感染原因としては、生徒に積極的な除菌として抗菌薬が投与されていなかったことから、症状が消失した後も少量残存していた菌により、家庭内感染を起こしたと推察される。また、当該患者家族については保健所の調査・指導に対して十分な協力が得られなかったこともあり、自宅内の消毒や手洗い等の指導が徹底できなかったことが二次感染の要因となったことを示唆させる。
学校については、必要箇所の消毒の実施と、手洗い消毒の徹底等の保健指導、および健康観察を実施し、その他の学年の生徒も含めて健康状態に異常はないことを確認しており、二次感染の恐れはないものと考えられる。
また、近年は海外へ修学旅行に行く学校が増えているが、学校や教育委員会に対しては、渡航先での提供食事の内容について配慮したり、生徒に対する現地での手洗い消毒の徹底や、帰国時に体調不良があった際の検疫所健康相談室への申し出などの、一般的な海外渡航前の基礎知識を周知する必要があると思われる。
神戸市保健所予防衛生課
兵庫区保健福祉部健康福祉課
北区保健福祉部健康福祉課
長田区保健福祉部健康福祉課
須磨区保健福祉部健康福祉課
西区保健福祉部健康福祉課
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