はじめに
本県では、3年ごとに大きな麻疹流行が起きており、2001(平成13)年には約900人の麻疹患者と2人の乳幼児の死亡が報告される深刻な状況が見られた(図1)。
このため、県では、次の大きな流行を阻止するために2002(平成14)年9月に県の医師会、小児科医会、小児保健協会、市町村など関係機関が連携して、「みやざき−はしかゼロ作戦−プロジェクトM」本部を立ち上げ、予防接種率向上に向けた様々なアクションプランに全県的に取り組んだ。その結果、2003(平成15)年に麻疹の一部地域的流行があったものの、2004(平成16)年の麻疹患者報告数は1人、2005(平成17)年の同報告数はゼロを達成した。県では、予防接種法の改正にあたって、この成果を維持するための基本的な方向性について検討を行った。本論では、宮崎県のこれまでの取り組み、制度改正に当たっての取り組みと今後の方向性について報告する。
1.これまでの取り組み:はしかゼロ作戦
1)啓発活動と未接種者への接種勧奨の徹底:麻疹流行阻止の目標となるワクチン接種率95%を目指し、「一歳の誕生日に『はしかの予防接種』をプレゼント」をキャッチフレーズにパンフレット・ポスターの作成配布など、作戦本部に参加する医師会、市町村および県などがそれぞれアクションプランに基づき、予防接種の啓発活動を行った。
また、市町村が実施する乳幼児健診時に未接種者保護者を対象とした説明を行うとともに、市町村や教育委員会と連携して、集団生活を開始する保育園・幼稚園入園時や小学校の就学時健康診断時に麻疹および風疹のワクチン接種率の把握調査を行った。さらに、その時点での未接種者に対しハガキによる接種勧奨を行った。
2)予防接種を受けやすい体制の構築:県民の利便性と予防接種率の向上のため、いつでもどこでも予防接種を受けられる体制づくりとして、県医師会および小児科医会、市町村代表および県からなる「県予防接種広域化代表者会議」の4回の協議を経て平成15年7月から広域予防接種体制をスタートさせた。これにより乳幼児等の麻疹、風疹など定期予防接種が居住地に関係なく県内の医療機関において接種可能となった。
3)全数把握による発生動向観測体制の構築:平成15年11月から、県内すべての医療機関からの全数報告を開始した。報告の流れは、患者情報を医療機関から保健所、保健所から県感染症情報センター(県衛生環境研究所)である。同センターは感染拡大防止を図るため、県内全域の関係機関へ情報還元を行った。また、平成16年11月から、全数報告の情報を県庁ホームページ「宮崎麻疹マップ」で公開し、リアルタイムで情報提供ができるようになった。これにより、患者の年齢、性別、ワクチン接種歴、感染場所、市町村別報告数、前年同時期との発生状況の比較等が迅速に閲覧可能になっている。
4)公費による麻疹の定期外予防接種実施:平成15年3月頃から麻疹の集団感染が一部地域で発生した(図2)。このため、国立感染症研究所の実地疫学専門家養成コース(FETP)の協力の下、流行拡大防止の対応を図るとともに、全国的にも稀な広域にわたる関係市町の公費に基づく定期外予防接種を実施した。具体的には、関係市町において同年5月〜6月までの間に小中学生を対象に感受性者(未接種者および未罹患者)と不明者の調査を行い、接種対象者1,206人のうち接種を希望した1,017人(84%)に対し、学校や保健センターにおいて実施した。なお、接種者からの副反応の報告はなかった。ちなみに、接種後の7月には流行は終息している。
5)予防接種率と患者発生数:プロジェクトの結果、1歳代の接種率は、2000(平成12)年度74.9%から、この4年間の平均で88.9%まで上昇した。この接種率をさらに上げるため、就学時健康診断時に接種の有無を把握の上、はがきによる勧奨の結果、平成15年度は88.5%から90.4%、平成16年度は89.4%から90.9%と、若干ではあるが上昇させることができた。しかし、残念ながら目標とする95%には到達しなかった。また、保育園・幼稚園入園時モデル事業でも、対象園児 3,362名の未接種者260名(接種率92.3%)に対する接種勧奨でも、3%(86名)の上昇にとどまっており、今後に課題が残った。
6)ウイルス学的調査(抗体検査調査)による評価:平成14〜16年度の3年間にわたり、一般的に麻疹の流行閑期と考えられている冬季を中心に、県立宮崎病院小児科と宮崎大学医学部付属病院小児科を受診した患者のうち、事業の主旨に賛意を得られた0歳〜5歳の小児から、年齢ごとに約25名の血清を採取し、血清中の麻疹PA抗体価を測定した。その結果、6カ月〜1歳未満群では、 128倍以上の抗体価を有する者はゼロであり、1〜4歳群では、平成14〜16年度にかけて徐々に抗体保有率が上昇した。他方5歳群では、4歳群に比べ、すべての年で抗体保有率の減少傾向が確認された。
また、平成17年度の感染症流行予測事業の検体を用いて、はしかゼロ作戦運動実施後のフォローアップ検証を実施した。0〜1歳、2〜3歳、4〜9歳群について平成16年と平成17年の抗体保有率を比較したところ、いずれの年齢層においても後者は前者に比べて上昇している。
2.制度移行を控えての対策
プロジェクトMの全県的な精力的な取り組みの成果か、麻疹の定点医療機関からの届出件数は、平成13年872人、平成14年189人、平成15年504人、平成16年1人、平成17年0人と減少した。さらに、平成16年11月からの全数報告でも、平成17年は0人を達成した。
麻疹の排除(elimination)を目指して、麻疹風疹混合ワクチンによる2回接種が、平成18年4月から施行される。1歳〜7歳半まであった接種対象期間が、1歳代と小学校就学前の1年間に限定されるため、接種漏れ者出現による地域の集団免疫の低下が懸念された。このため、宮崎県では、旧制度の対象者が可能な限り旧制度で接種を受け、接種漏れ者をなくすことを喫緊の課題とし、市町村等を通じて接種キャンペーンを実施した。その結果については、4月中に把握する予定である。なお、市町村に対しては、接種率調査の結果、接種漏れ者が多い場合には、経過措置の設定による特別対策も必要になる可能性があることを伝え、接種キャンペーンの尽力を促した。
3.今後の方針
平成17年度は、報告患者数ゼロを達成したが、1回接種の接種率は95%に達しておらず、今後も未接種者等の蓄積による麻疹流行の可能性は残している。このため、宮崎県では、引き続き地域の集団免疫を高め、流行のきざしがあった場合には早期に封じ込めることを目標に、医療機関からの全数報告による早期発見体制や、県内どこででも接種できる広域予防接種の継続等、接種体制の維持に努めることとしている。
予防接種法の改正に伴い、これまでの成果を維持発展させるため地方自治体としても対応に迫られている。宮崎県では、4月には市町村ごとに接種率調査を行い、接種漏れ者の把握を行い、必要な場合には市町村に対し経過措置の検討を要請する計画である。
地域の集団免疫を高める手法については、プロジェクトMや今回の移行に際して行ったように徹底して接種対象者をフォローし接種率を上げる方法や、2回接種の早期導入など、さまざまなオプションがある。新制度に向けて、麻疹排除(elimination)を目指し県内の市町村では、国が要請した経過措置以外の任意接種についても公費負担するケースがでてきており、宮崎市を含む1市3町は、小学校就学前の1年間の対象者に対して、旧法で接種した場合や、麻疹または風疹に罹患した場合の2回接種に対して、公費負担を行うことを決定している。
県では、昨年の日本脳炎予防接種の積極的勧奨中止に際し、県民それぞれが自分で判断して接種の有無を決められるよう、宮崎県の過去の日本脳炎ウイルス蔓延状況や、接種と非接種の理論上のリスク比較など踏み込んだQ&Aをホームページに掲載するなど、情報提供を行った。その経験から、任意の予防接種でも、県民一人一人が自分の判断で、必要な予防接種を行うことの重要性を痛感し、情報提供体制の構築など、推進のための体制づくりを目指すこととした。
麻疹の2回接種は、定期の予防接種としての具体的導入前であり、任意の予防接種となる。被接種者(保護者)に任意接種であることを理解してもらうことが前提となるが、市町村が麻疹ゼロを維持するため、独自に財政措置などにより2回接種の早期導入を行うことは、「任意の予防接種であっても自分の判断で必要な予防接種を行う社会」という県の目指す方向とは一致する。県としては、そのような場合に県民が参考にできるように、県医師会小児医会と共同でQ&Aを作成中であり、近日中にホームページに掲載する予定である。
宮崎県都城保健所 塩井川二郎
宮崎県福祉保健部 石川幸治 日高政典 瀧口俊一 相馬宏敏 葛西 健
宮崎市保健所 日高良雄
宮崎県衛生環境研究所 元明秀成
宮崎県健康づくり協会 浜田恵亮