平成18年度の堺市における麻しん風しん混合ワクチンの経過措置について

(Vol.27 p 100-101:2006年4月号)

2006(平成18)年4月1日より予防接種法の改正に伴い、麻疹および風疹の定期予防接種が大きく変更されることとなった。改正の内容は、麻疹風疹混合ワクチンを1期(生後12月〜24月)、2期(5歳以上7歳未満で小学校就学始期前の1年間にある者)と2回接種を念頭に置いたものである。ただし、平成18年3月までに単抗原の麻疹もしくは風疹ワクチンを接種している者については、1期および2期の対象者とならない。また、麻疹あるいは風疹に罹患した者についても1期および2期の対象者とならない。という内容であった。

大阪では、1999(平成11)年12月〜2000(平成12)年11月にかけて、堺市を発端として麻疹が大流行した。この流行は、保育施設などの乳幼児施設を中心に広まったと考えられている。そのような経過から、翌年の2001(平成13)年から堺市において麻疹の流行に関する原因調査を開始するとともに、その結果に基づいた麻疹ワクチン接種率向上に向けた様々な啓発活動や取り組みを行ってきた。

一方、2004(平成16)年3月末に堺市内の民間保育施設で風疹が流行したことをきっかけとして、堺市保健所は医師会や保育課と協力して、集団生活を送っている乳幼児の保護者に対する風疹ワクチン接種を呼びかける文書を配布する等の各種対策を実施した。

これまで堺市が実施してきた調査では、在宅児や幼稚園児よりも、早期から集団生活を開始している保育施設等の幼児の方が麻疹および風疹のワクチン接種率が低いことが明らかとなっている(IASR 22: 280-282, 2001参照)。平成14年4月の調査開始当初、堺市の公立保育所における1歳児クラス以上の麻疹、風疹ワクチン接種率は、それぞれ平均68.0%、43.7%であった。その後接種率向上にむけての対策を継続的に実施した結果、年々接種率の上昇が認められ、2005(平成17)年4月時点の公立保育所における1歳児クラス以上の麻疹、風疹ワクチンの接種率はそれぞれ84.8%、62.3%と上昇がみられている。目標とすべき接種率よりは依然低いものの、着実に接種率は上昇してきており、保護者をはじめ保育施設のスタッフ、保育課の職員にもワクチンの重要性が認識されつつある結果と考えられる。

しかしながら今回の改正内容は、非常に複雑で理解しにくい、定期接種できる期間が非常に短い、ワクチンを1回しか接種できない児と2回接種できる児の二極化が生じ、不公平が生じること、また、任意接種した場合の健康被害に対する補償額の内容に差が生じる、などといった不満の声が、保護者や接種現場の医師等から数多く寄せられた。

そのため堺市では、(1)これまで着実に上昇しつつあった麻疹、風疹ワクチンの接種率が低下することを可能な限り阻止すること、(2)堺市において2度と麻疹を流行させないこと、(3)先天性風疹症候群(CRS)の児を堺市において発生させないこと、等を目標とすべきであり、そのためには今回の政令、省令の枠を超えた形にはなるが、堺市独自の経過措置は是非実施すべきであると考えた。経過措置を行うにあたっては、医師会の先生方と何度も話し合いを行い、また、今回の改正内容が複雑かつ理解しにくいということから、堺市医師会、保育施設、保健所・保健センター関係者に向けて、来年度からの予防接種の改正についての説明会・研修会を行い、2006(平成18)年4月より実施できる運びとなった。

経過措置の内容は、2006(平成18)年4月1日〜2007(平成19)年3月31日までに生後12月以上90月までの児が対象で、単抗原の麻疹もしくは風疹ワクチン未接種者である者、また麻疹あるいは風疹に罹患した児について単抗原の麻疹あるいは風疹ワクチンを市で接種費用を負担することで接種することができる。また、経過措置の期間において接種した場合は任意接種となるため、健康被害が生じた際、予防接種健康被害救済制度の適用にならない。その場合の補償は、独立行政法人医薬品医療機器総合機構法に基づく医薬品副作用被害救済制度によることとなるが、同制度だけでは、予防接種健康被害救済制度と補償額に差が生じるため、堺市では全国市長会予防接種事故賠償補償保険を併せて適用する、という内容である。ただし現時点では、経過措置の期間は当面1年間という限られた期間となっている。

堺市では、現場の医師、保育施設のスタッフ、保健所・保健センターのスタッフをはじめ、予防接種に関わってきた方々の努力により、着実に麻疹、風疹ワクチンの接種率は上昇してきた。今回の改正により今後接種率が低下し、麻疹の流行の発生やCRSの児が出生しないことを祈念する。

堺市保健所医療対策課 藤井史敏 柴田仙子
国立感染症研究所感染症情報センター 安井良則

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