2006年2月21日、ペンシルベニア州保健当局はCDCおよびニューヨーク市保健当局に対し、ニューヨーク市在住の男性における吸入炭疽の症例を報告した。これを受け、関係機関が共同で調査を実施した。
2月16日、この男性はダンスの公演のためにニューヨーク市からペンシルべニア州に行き、その夜遅く悪寒を生じて虚脱状態になったため、現地の病院に入院した。それまでの3日間、息切れ・乾性咳嗽・倦怠感が続いていたとのことである。胸部レントゲン写真で両側の浸潤影と胸水がみられた。翌日、呼吸状態悪化のため、三次医療機関に転送された。血液培養ボトル4本のすべてにグラム陽性桿菌がみられたが、2月21日にPCR検査およびガンマファージ感受性から、炭疽菌と同定された。その翌日、CDCにてgenotype 1と判明した。ELISA法による防御抗原に対する抗体検査では、病初期では検出限界以下であったが、2月22日にはIgG抗体が検出可能となり、23日には検出限界に対して4倍の上昇となり、抗体陽転を示した。3月14日現在、患者は入院中である。
患者は、通常はニューヨークの輸入業者から入手した動物の毛皮を加工して、伝統的アフリカ太鼓を作っていた。2005年12月20日、3週間滞在したコートジボワールから乾燥させた山羊の皮をビニールに包まれた状態で持ち帰り、換気の効いていない窓のない仕事場で、大量のエアロゾルを発生させる作業(皮を水で浸し、カミソリで毛をそぎ落し、乾燥させる)を行っていた。マスクや手袋などの感染防御具は用いていなかった。この皮を用いて最後に作業をしたのは、2006年2月12日であった。
患者の自宅、仕事場、車から採取された表面ぬぐい液、ふきとり液、真空吸引検体のうち、仕事場のすべての検体で炭疽菌が検出された。また、自宅、車の検体からも炭疽菌が検出された。検出された炭疽菌はgenotype 1であった。患者は仕事場で、皮から毛をそぎ落とす作業で曝露を受けたと考えられた。
患者が動物の皮を用いて作業をしていた期間に仕事場を訪れた4人には、吸入炭疽に対する予防投薬が勧められた。3月14日現在、聞き取り調査および強化サーベイランスでは、さらなる炭疽疑い例あるいは確定例は確認されていない。
(CDC, MMWR, 55, No.10, 280-282, 2006)