2006年3月14日、タイのNan 州Nawaimai村において毎年恒例の宗教行事が行われ、参加者のうち数人がその日のうちに、胃腸炎の症状で地元の医療機関を受診した。翌日、タイ保健省の実地疫学専門家に、食中毒集団発生の可能性があるとして報告された。症状は進行し、球麻痺症状や、3例では機械的人工呼吸を必要とする呼吸抑制が認められ、この段階でボツリヌス症の集団発生が疑われた。今回の行事の参加者として354人の村民が確認されたが、そのうち 200人がそこで提供された食事を摂っていた。
症例定義は、宗教行事に参加していた人で腹痛、疝痛、悪心、嘔吐、下痢、頭痛、発汗、口内乾燥、嚥下障害、複視、眼瞼下垂、四肢脱力、呼吸困難のうち、ひとつ以上の症状を呈した者とした。医療機関や地域における積極的症例探査の結果、 163人が症例定義に合致した。症例の年齢中央値は45歳(年齢範囲13〜75歳)であり、113例(69%)が女性であった。初発症例の発症日時は3月14日午後2時で、87人(53%)が3月15日に発症し、最後の症例の発症日は3月18日であった。141人(87%)が入院したが、それらを含む151人の症状としては、腹痛が77%、口内乾燥が50%、悪心が50%、嚥下障害が38%、嘔吐が35%、複視が17%、眼瞼下垂が11%、四肢脱力が9%であった。なお、42人が機械的人工呼吸を必要とした。
宗教行事で食事を摂った200人のうちの145人の喫食調査の結果、発症者の100%が食べていた食品はタケノコの自家製缶詰のみであった。このタケノコは地元の女性グループが作り、缶詰にした(1缶20リットルで、約13kgのタケノコを含む)。2005年9月に合計53個の缶詰が作られ、うち46個は2005年9月〜2006年2月の期間に主として地元で販売された。今回の集団発生の前に、その地域での同様疾患の報告はなかった。宗教行事の当日の朝、2個の缶のタケノコを一緒にして洗浄し、スライスにし、プラスチック袋に入れて昼食時まで保管していた。2個の缶のうちの1つは混濁していたことが明らかとなった。臨床症状と疫学調査の結果より、最も考えられる原因はボツリヌス菌毒素であった。残っていた缶詰のタケノコ検体を培養したところボツリヌス菌がみられ、PCR検査でA型毒素が検出された。
タイ保健省は国際社会にボツリヌス抗毒素の供与を求め、英国、米国の他に、日本の国立感染症研究所からは3価(註:その後4価に訂正)の抗毒素23バイアルが提供され、最も重症の患者に投与された。文献的には、発症後24時間以内の投与が最も効果的とされているが、今回は麻痺の進行を抑制し、罹病期間の短縮を図るため、より遅い時期ではあるが、3月19、20、23日に投与された。短期および長期の転帰を評価する調査研究が行われている。4月10日現在、25人が入院中で、9人が機械的人工呼吸を受けている。死亡者は出ていない。
(CDC, MMWR, 55, No.14, 389-392, 2006)