新潟県三条保健所管内の小学校(児童数436人、教職員38人)で、2006年2月22日〜23日にかけて、嘔吐を主徴とする児童が多発した。発症のピークは23日で、3月8日までの観察期間で、発症者は児童167人、養護教諭を含む教職員5人、計172人に及んだ。23日発症の児童10名の検便の結果、9名(1年5名、2年、3年、4年、6年各1名)からノロウイルスgenogroup (G)Iが検出された。遺伝子解析の結果、GI/8に属するタイプで、日本DNAデータバンクにおけるBLAST検索では、Hu/NV/OC03034-2/GI/2003/JP(AB186089)に近縁であった。
症状の発現率を表1に示す。嘔吐60%、下痢26%で、嘔吐を主体とした症状であった。図1の流行曲線から、単一曝露と考えられた。本校における給食は、2校に供給されていたが、他の小学校では発症者は無く、調理従事者8名も健康状態良好でノロウイルスも検出されなかったことから、給食センターを原因とする食中毒を否定した。
クラス別の発症率は図2のとおりで、低学年に多い傾向があり、男女差はなく、曝露は低学年を中心に起こったものと考えられた。図1の流行曲線では、21日に学校で便失禁した児童1名を示してあるが、21日以前にも複数の胃腸炎患者がいたことが確認された。学校内で嘔吐の事例は無いが、換気状態の悪い小体育館を、主に低学年が共用していたことから、ここが主要な感染の場と推測された。また、小体育館の利用が少ない高学年も発症していたことから、他にも曝露要因があると考えられた。ノロウイルスの潜伏時間を考慮した場合、21日が曝露日の可能性が高く、仮に、21日正午を曝露時間とすると、平均潜伏時間はおよそ40時間となる。
当該保健所管内の感染症サーベイランスの定点当たり患者数は、第8週(2月20日〜26日)に前週の6.8から11.4と急増した(図3)。また、事件から3月3日までの間の、同じ保健所管内の小児科における病原体サーベイランスで、発生のあった小学校以外の1小学校2名、および2中学校2名の生徒の患者便からGI/8ノロウイルスが検出され、家庭内感染や地域内での感染があったと考えられた。
GI/8による胃腸炎は、今年1月に県内における病原体サーベイランスで検出されており、また、2005年3月に保育園における集団胃腸炎事例も発生があった。冬季のノロウイルスによる胃腸炎の集団発生は、主にGIIのノロウイルスによる事例が多いが、カキによる食中毒以外のGIノロウイルスによる感染症も少ないながら発生している。
新潟県保健環境科学研究所 田村 務 西川 眞
新潟県三条健康福祉環境事務所 松井一光 五十嵐 榮 渋谷 学(平成17年度当時)
いからし小児科アレルギークリニック 五十嵐隆夫