千葉市内の児童福祉施設であるE施設において、腸管出血性大腸菌(EHEC)O157による集団感染事例が発生したので概要を報告する。
2005年8月9日、千葉市内の医療機関から保健所に1歳女児の腸管出血性大腸菌O157(以下O157)感染症発生届があった。患者は、8月1日から下痢・血便を認め、5日に医療機関を受診し、9日にEHEC O157 (VT1&2)が検出された。
患者は、児童福祉施設であるE施設に入所していたため、保健所は同施設の聞き取り調査を開始した。調査の結果、他にも下痢症状を呈している乳幼児が複数いることが判明したため、同日より、保存食(調理済食品および原材料7月26日〜8月3日分)83件、調理器具などのふきとり5件、風呂用の井戸水2件、さらに乳幼児便24件、患者家族便2件、職員便(看護師、保育士、調理従事者等)24件についてO157検査を実施した。その結果、乳幼児10名(初発患者含む)からO157:H7 (VT1&2)が検出された。検出された菌株10株のパルスフィールド・ゲル電気泳動法(PFGE)による遺伝子解析の結果、PFGEパターンがすべて一致したことから、同一由来株であることが確認された。一方、保存食、ふきとりおよび職員等のいずれの検体からもO157は検出されなかった(表)。
E施設は、民間の児童福祉施設で、保護者の養育が困難な乳幼児を対象に養護し、自立を支援することを目的とした施設である。事件発生時、同施設には短期入所者を含め0歳〜3歳までの24名の乳幼児が2グループに分かれて入所していた。図にO157菌陽性者の発生状況を示した。Iグループには、生後間もない5名の乳児、IIグループにはそれ以外の乳幼児が保育室とよばれる部屋で主に生活しており、初発患者の女児AはIIグループに属していた。IIグル−プは、ハイハイや歩行が可能な乳幼児なので、決められたスペース内で乳幼児同士が遊んだり、行き来したりしており、感染者の発生は同グループの乳幼児にのみ限定されていた。
女児Aは、8月1日から下痢・血便を認めており、職員はその状況に気づいていたが、単なる下痢と判断し、医療機関への受診や感染防止の措置は行わなかった。医療機関への受診は発症から4日後、O157と確定されたのはさらに発症から8日後とかなり日数が経っていた。事件時、簡易プール等のプールの使用は認められなかった。このような状況から、本事例は、他の乳幼児より発症時期が数日以上早い女児Aが感染源となり、乳幼児同士の接触の中で、次々と乳幼児B〜Jに感染が拡がった可能性が高いことが推測された。職員は、下痢等の症状を把握した時点で速やかに医療機関を受診させ、他の乳幼児との隔離を行っていれば被害は最小限にすんだものと思われ、適切な対応を怠ったことが、施設内で感染が蔓延した要因の一つであると考えられた。なお、初発患者の感染要因の特定には至らなかった。
EHECの発生状況は、依然として保育所・幼稚園での集団発生が多い傾向にあり、その伝播経路は、ほとんどの事例で人→人感染であることが推定されている。オムツの使用は、糞口感染を発生しやすい状況にするため、その取り扱いには十分な注意が必要である。乳幼児は、大人にくらべ少量の菌でも感染しやすいため、集団の中では特に感染拡大の防止が必須である。保育所、幼稚園等の乳幼児施設に携わる職員は、個々の健康状態を把握し、手洗い等の衛生教育および衛生管理を徹底させることが重要であると思われる。
千葉市環境保健研究所
秋葉容子 木村智子 鶴田美好 秋元 徹 三井良雄 小笠原義博 池上 宏
千葉市保健所感染症対策課