保育所で発生した腸管出血性大腸菌O157による集団感染事例−島根県

(Vol.27 p 147-147:2006年6月号)

2005年9月5日島根県西部の医療機関から入院中の幼児が腸管出血性大腸菌感染症の可能性があるとの情報が保健所へ入った。患者の主な症状は下痢、血便で、溶血性尿毒症症候群(HUS)も認められた。保健所は届出の前だったが、保護者から状況を聞くとともに、腸管出血性大腸菌感染症の際の対応を説明した。9月6日に菌が確定し、保健所へ腸管出血性大腸菌感染症O157(VT2陽性)の届出があった。患者は1歳の女児で保育所に通っており、保健所が保育所の園児、職員の健康調査を実施したところ、職員15名のうち3名の陽性が判明した。当初、下痢等の消化器症状のある園児を検査の対象としていたが、職員3名の陽性が確認され、いずれも無症状病原体保有者だったことから、すべての園児を検便の対象とした。その結果、新たに有症の園児2名と無症状病原体保有の園児10名が確認された。

保育園は図1に示すとおり年齢別に4クラスにわかれており、菌陽性者は0〜1歳児クラスが4名、2〜3歳児クラスが4名、4歳児クラスが2名、5歳児クラスが3名、職員3名の計16名だった。

そのうち、症状があったのは0〜1歳児クラスの2名と2〜3歳児クラスの1名の計3名だった。

今回の事例では、保育室の位置、園児の年齢にほぼ無関係に感染が起きており、施設内感染、特に給食が疑われたが、検食、調理場のふきとり、調理員の検便のすべてが陰性だった。また、感染者の家族もすべて陰性だった。

患者・感染者から分離された菌株16株(腸管出血性大腸菌O157:H7、VT2産生)は、国立感染症研究所での解析の結果、パルスフィールド・ゲル電気泳動型はすべて一致し、同一の菌株による集団感染が示唆された。

菌陽性者のうち、下痢などの症状を認めた3名の発症時期は9月1日〜5日でほぼ同時期だった。菌陽性者は保育所の園児と職員に限定されており、家族には感染が認められなかった。患者あるいは感染者が保育所へ持ち込んだO157が人→人へ感染したものと推察された。この保育所では0〜1歳児のクラスはオムツの児、一人でトイレへ行く児が入り交じっており、職員は紙オムツ交換後の手洗いを徹底するとともに、園児の用便後や食事前の手洗いに十分配慮することが必要だったと考えられた。

患者がO157へ感染していることが判明した時には、医療機関からの事前の情報を基に、保健所は保育所の園児等の健康状況調査や患者家族の調査を開始しており、迅速な対応が感染の拡大防止に有効だったと考えられた。

島根県保健環境科学研究所 勝部和徳 波多由紀子 岸 亮子 島田里美

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