保育園で発生した腸管出血性大腸菌O111による集団感染事例−山形県

(Vol.27 p 148-148:2006年6月号)

2005年9月、県南部の保育園において、園児および家族に腸管出血性大腸菌(EHEC)O111:H-(VT1&2)による集団感染事例が発生したのでその概要を報告する。

9月1日、医療機関から小学5年男児のEHEC O111によるEHEC感染症発生届が保健所に提出された。保健所では直ちに家族の疫学調査および便検査、学校の健康調査を実施した。学校では下痢等の有症者はなかったが、患者の弟が同様の症状を呈し医療機関を受診していることが判明した。9月3日になり医療機関から、この弟に加え女児のEHEC感染症発生届が保健所に提出された。二人は同一の保育園に通園していた。保健所では直ちに保育園の園児および職員の健康調査を行ったところ、園児に下痢等の有症状者がいたことから、保育園での感染が疑われ疫学調査と検査を実施した。

検査はEHEC O111を対象に、患者家族の便および患者宅の井戸水、保育園の園児・職員全員の便、調理器具・園児室内のドアノブ・おもちゃ・トイレ便座等のふきとりおよび検食を検体とし実施した。菌の分離には、マッコンキー基礎培地にCT-サプリメントと1%の濃度になるようd-ソルボースを添加したCT-ソルボースマッコンキー寒天培地を用いた。ふきとりおよび検食は、mEC培地で増菌培養し、O111免疫血清を感作させた免疫磁気ビーズによる集菌後、分離培養を実施した。また井戸水は3Lを0.45μmのメンブランフィルターでろ過後フィルターを検体とし、前述の方法で検査を行った。

検査の結果をに示した。便検査では園児74名中11名、家族39名中6名からEHEC O111:H-(VT1&2)が検出された。ふきとり、検食、井戸水からは検出されなかった。園児の年齢別の陽性率は、1歳児および2歳児がそれぞれ46%、27%と高かった。また、菌が検出された3歳児および5歳児は、1歳児および2歳児で菌が検出された園児の兄弟であった。

今回分離されたEHEC O111:H-(VT1&2)17株について、Bln Iを用い、パルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)を行ったところ、17株(レーン2〜11、13〜19)は、すべて同一のパターンを示した()。また、2005年7月に隣町で発生したEHEC O111:H-(VT1&2)散発事例の分離株(レーン1)、2005年7月に県内他保健所管内で発生したEHEC O111:H-(VT1 )散発事例の分離株(レーン12)は、両方ともわずかに異なったパターンを示し、この集団感染事例との関係は薄いと考えられた。

これらのことから、今回の集団感染事例は同一の感染源によるものと推察された。しかし、検食から菌が検出されなかったことや、最初に届出があった児童、次に届出があった弟および女児はほとんど同じ時期に発症していたことから感染経路を特定することはできなかった。

この保育園では年齢により保育室が独立していたが、1歳児と2歳児の保育室は園児が自由に行き来できる構造であった。また、保育士がオムツ交換をする際、手袋を着けずに作業していたことや、1、2歳児のトイレ訓練として用便後バスタオルをかけた長椅子に座らせて着衣を直させていたことなど、基本的な衛生管理がとられていなかった。ふきとりでは菌が検出されなかったが、1、2歳児保育室内における菌の汚染により感染が拡大したと考えられた。

保健所では、職員に対し施設内の消毒法や糞便等の衛生的な取扱いについて指導した。一方、保育園では9月5日に保護者に対し説明会を行い、状況の説明と園児の便検査の実施に対し理解を求めた。また、6日からの給食を停止するとともに、8日〜10日まで休園し、対応を図った。このことから11日以降新たな患者および感染者は発生せず終息した。

置賜保健所
山田敏弘 手塚美香 須貝和代 富樫一弥 後藤裕子 吉田眞智子 山田栄造
村山正則 池野知康
山形県衛生研究所 大谷勝実

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