オランダではListeria monocytogenes 感染症(以下、リステリア症)は届出疾患ではなく、2005年より以前は、人口の約44%をカバーする15カ所の地域公衆衛生ラボからの情報を元にしていた。加えて、オランダ細菌性髄膜炎リファレンスラボ(NRLBM)に送付される、髄膜炎や敗血症症例からの菌株に関する情報も収集されていた。これらのデータによると、リステリア症の年間発生率は2002年までは約2例/100万人/年で安定しており、2003年以降では約3例/100万人/年となっていた。
2005年1月に強化サーベイランスが開始され、すべての検査機関は陽性例を報告し、血清型の決定、パルスフィールド・ゲル電気泳動法(PFGE)による解析のために、菌株を送付するよう依頼がなされた。また質問票を用いて、臨床的事項やリスク因子についての情報が収集されている。
2005年上半期には35例(4.3例/100万人/年)が報告されたが、胃腸炎や肺炎などの重症度の低い症例からの菌株が多いので、この発生率の増加は強化サーベイランスを開始したことで説明可能かも知れないが、真に増加したことも否定はできない。
これらの35例のうち、75%には免疫抑制療法や悪性腫瘍などリステリア症にかかりやすい素因があり、他の基礎疾患を有する者も多く、発症前に健康であった者は5〜10%に過ぎなかった。リステリア菌への曝露要因として可能性があったのは、ソーセージ、加熱あるいはスモークハム、スモークサーモン、ソフトチーズ、生野菜あるいはサラダなどの喫食、あるレストランにおける喫食などであった。
血清型別とPFGE解析によって、4つのクラスターがあることが示されたが、そのうちの1つのクラスターは15名の患者から成っていた。質問票による調査からは、感染源は不明であった。血清型でみると2004年と同様に、4bよりも1/2aの方が多かった。
オランダ食品・消費者製品安全庁は食品のリステリア菌検査を行っており、菌株の血清型別、PFGEも行っているが、この機関と密に連携することは、ヒト症例における主要な感染源を特定するのに役立つと思われる。
リステリア症は重症化しやすく、致死率が高いため、妊婦はソフトチーズやスモークサーモンなどの高リスク食品の喫食を避けるよう忠告を続けるべきであり、やはり高リスクである免疫不全者へもこの忠告を拡げるべきである。
(Eurosurveillance Weekly 11, 20 April 2006)