2005年8月、千葉市内の刑務所および配送先の少年鑑別所で、刑務所の給食施設から提供された食事を原因とする毒素原性大腸菌(以下ETEC)O6:H16による集団食中毒が発生したので、その概要を報告する。
2005年8月29日午後12時30分、刑務所の医師から、刑務所の受刑者十数名が8月28日夕方から下痢、腹痛、発熱の食中毒症状を呈している旨、保健所に届出があった。調査の結果、両施設の食事は、刑務所の給食施設で一括して調理し、約4km離れた少年鑑別所にも車で配送・提供しており、両施設併せて収容者 1,310名中 401名が発症していることが判明した。有症者の共通食は、当該給食施設の食事に限られていることから本施設を原因とする食中毒と断定された。
細菌学的検査は、施設内の器具・設備のふきとり11検体、検食(8月26日〜28日の調理品)49検体、原材料(白菜とキムチの素)2検体、刑務所の患者糞便75検体(調理従事者6検体を含む)、少年鑑別所の患者糞便18検体について行った。その結果、検食1検体(白菜キムチ漬け)および患者糞便81検体からST・LT両毒素産生の毒素原性大腸菌O6:H16が検出された(表)。調理従事者は、ローテーションにより調理を行っていた受刑者で、給食を喫食後、症状を訴えていた。なお、本食中毒の発生以前に体調異常を訴える調理従事者は認められなかった。
糞便のETECの検査については、DHL培地からcolony sweep-PCR法によりSTおよびLT遺伝子の検索を行い、STもしくはLT遺伝子が確認されたものは、引き続き単独コロニーについて検索し、ST・LT毒素産生性およびO6:H16を確認した。
検食のETEC検査については、複数の便からO6、ST、LTが検出されたことから、毒素遺伝子の検索を行うこととした。増菌培養後に4℃に保存していたNB加mEC培養液をDHL培地に分離し、colony sweep-PCR法によりSTおよびLT遺伝子の検索を行った結果、白菜キムチ漬けよりSTおよびLT遺伝子を確認した。しかし、このDHL培地は、クレブシェラが優勢に発育し大腸菌コロニーが確認できなかったことから、さらに菌を分離するために、以下の3つの方法を試みた。前述のDHL からのcolony sweep懸濁液をDHL、BTBおよびMAC各5枚に分離(方法1)、冷凍保存していた食品の10倍乳剤について、その1mlをEC培地で44.5℃、一夜培養後BTBとEMBへ分離(方法2)およびデスオキシコーレイトに混釈培養後、赤色集落をBTBとEMBへ分離(方法3)する3種類の方法で行った。その後、各平板培地から大腸菌様コロニーを釣菌し、O6抗血清で凝集の確認された菌株について、生化学性状、STおよびLT産生性試験を実施した。その結果、1と2の方法からは、いずれもクレブシェラが優勢に発育し、大腸菌O6は検出されなかった。一方、3の方法からはデスオキシコーレイトに発育した200個の赤色集落の中から無作為に50個を釣菌した結果、1コロニーのみから当該菌が検出された。
検出されたETEC 18株(白菜キムチ漬け由来1株、患者由来11株、調理従事者由来6株)についてパルスフィールド・ゲル電気泳動(以下PFGE)および薬剤感受性試験を実施した。制限酵素Xba IによるPFGEパターンはすべて同一であった(図)。薬剤感受性試験は、すべての株が12薬剤(SM、ABPC、TMP、FOM、ST合剤、GM、TC、NFLX、NA、KM、CTX、CP)に感受性であった。
以上の結果から、今回の事例は、8月27日の昼食に提供された「白菜キムチ漬け」を原因食品とするETEC食中毒と断定された。なお、原材料の白菜とキムチの素については、ETECは陰性であり、感染経路については特定できなかった。colony sweep-PCR法は、便から迅速にETECの存在を把握し、さらには数多い検食から原因食品を絞り込むことが可能となり、スクリーニング法として有効であった。しかしながら、当該菌の選択分離培地がないことから、分離培養後に生じた多数の大腸菌様コロニーについて丹念にスクリーニングを行うという、労力と時間を費やす根気のいる検査となった。
なお、「白菜キムチ漬け」のETEC汚染菌数は、方法3から1.0〜 4.0×101/g(大腸菌群数は 2.0×103/g)と推定した。喫食量を25gと仮定すると、摂取菌量は102〜103個となり、検食の保存が喫食から3時間(室温、約35℃に放置)後に採取していることからも、極めて少ない菌量での発症が推測された。
千葉市環境保健研究所
木村智子 秋葉容子 鶴田美好 秋元 徹 三井良雄 小笠原義博 池上 宏
千葉市保健所食品衛生課