劇症型溶血性レンサ球菌感染症の散発3症例−滋賀県

(Vol.27 p 157-158:2006年6月号)

劇症型溶血性レンサ球菌感染症(TSLS)は突発的に発症し、急激に進行するA群レンサ球菌による敗血症性ショック病態を起こす5類感染症全数把握疾患である。滋賀県内におけるTSLS患者は1999年に1名、2002年に1名および2004年に1名認められていたが、2005年12月〜2006年2月の短期間に3名の発生があった。2006年のTSLS患者3名は全国的にA群溶血性レンサ球菌咽頭炎患者発生が増加している状況下で発生しており、今回、TSLS 3症例の概要と県内のA群溶血性レンサ球菌咽頭炎患者の発生状況を併せて報告する。

症例1:患者は33歳男性で、基礎疾患にダウン症候群および糖尿病性腎症による慢性腎不全があり、週3回の通院透析を受けていた。2005年12月24日、透析中に発熱(39.8℃)した。帰宅後の22時頃に意識もうろう状態になり、緊急入院となった。入院時の血圧は92mmHg(触診)、チアノーゼ(+)で、外傷等の皮膚病変は見られなかった。12月25日の朝にはさらに血圧低下、ショック状態となり、意識障害が悪化し治療したが、症状に改善が見られなかった。出血傾向が出現したため播種性血管内凝固症候群(DIC)も併発したと考えられ、ショック状態が改善されず12月27日に死亡した。12月25日に行った血液培養からA群溶血性レンサ球菌が検出された。分離株のT型はTB3264型、M蛋白遺伝子型はemm89.0 型および発赤毒素遺伝子型はspeB であった。

症例2:患者は32歳女性で、妊婦であった。2005年12月25日〜2006年1月10日まで切迫早産のため入院していたが、妊娠37週4日目の1月19日に発熱および陣痛発来で再入院となった。入院時体温39.1℃、血圧121/76mmHg、血小板23万/μlで、輸液および解熱剤を投与して分娩経過を観察していたところ、午後3時頃に胎児の心拍が停止し子宮内胎児死亡が確認された。患者は出血傾向があり常位胎盤早期剥離が疑われたため、緊急手術で子宮全摘が行われた。術後、集中治療が行われたが、DICを引き起こし1月20日に患者も死亡した。1月19日に行った血液培養からA群溶血性レンサ球菌が検出された。分離株のT型はT1型、M蛋白遺伝子型はemm1.0 型および発赤毒素遺伝子型はspeA speB であった。

症例3:患者は45歳女性で関節リウマチにより通院していた。2006年1月31日に高熱(39.9℃)により近医に受診していたが、2月2日に右下腿に皮下出血が認められ全身の関節痛が増強したため転院となった。入院時体温39.2℃、血圧94/76mmHg、WBC 27,100/μl、CRP 48.8g/dl、CPK 28,731U/Lで、右下腿に蜂窩織炎と考えられる圧痛を伴う高度発赤腫脹が認められた。2月3日から乏尿となり急性腎不全に陥り、肝障害も認め多臓器不全の状態となった。2月5日には紫斑および血小板減少が認められDICが疑われた。2月5日に採取された非解放膿からA群溶血性レンサ球菌が検出された。分離株のT型はTB3264型、M蛋白遺伝子型はemm89.0 型および発赤毒素遺伝子型はspeB であった。2月6日には右下腿の皮膚を切開して創部から排膿処置が行われた。入院当初は敗血症性ショックも疑われ容態が悪かったが、総合的な治療の結果、炎症反応が治まりCPKも正常化した。全身状態の改善傾向が見られたため、2月24日に皮膚科に転科となった。

A群溶血性レンサ球菌咽頭炎における2006年第1〜10週の発生動向を見ると、全国では1996年以降の10年間と比較して報告数が最も多い状態が続いている。滋賀県内は全国の発生動向に比べて少ないが、2005年の同時期よりは多い届出があり、定点当たり0.47〜1.81の患者数が見られた。

症例1および症例2が発生した時期における患者居住地の保健所管内の定点当たりA群溶血性レンサ球菌咽頭炎患者数は1.00以下と少ない状況であったが、症例3は3.00〜3.25と、全国の定点当たり患者数1.73〜2.04より多い状況下におけるTSLS発生であった。

滋賀県衛生科学センター
石川和彦 青木佳代 吉田とも江 林 一幸 辻 元宏
済生会滋賀県病院 榎本聖子 中原祥文 長谷川健二
近江八幡市民病院 初田和勝 中島順次 近澤秀己
大阪府立公衆衛生研究所 河原隆二

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