2006年2月、岩手県内のA保育園においてC群ロタウイルスによる急性胃腸炎の集団発生があった。この事例の概要を報告する。
事件の探知:2月17日、一関市役所から管轄保健所に、「管内保育園の園児が、嘔吐、下痢症状を訴え、多数欠席している。」との通報があった。保健所が保育園で聞き取り調査を行ったところ、園児138人、職員30人のうち、約20名が2月15日〜17日にかけて嘔吐、下痢症状を訴え、早退あるいは欠席していることがわかった。保健所では、患者発生状況の調査等の情報収集を継続するとともに、感染性胃腸炎の二次感染予防のための措置(うがい、手洗いの励行、有症者の早期受診勧奨、園内の消毒等)を講ずるよう保育園に指導した。
患者発生状況:A保育園は園児数138名、職員数30名であった。「A保育園の園児と職員の中で、2月11〜21日の間に、嘔吐あるいは下痢を呈した者」と症例定義して積極的症例探査を実施した。症例数は36(園児34、職員2)(男19、女17)であった。初発の症例は2月14日に発症し、2月16日をピークとして一峰性の様相を呈していた(図)。症例には、嘔吐が28名(78%)、下痢が13名(36%)、発熱が3名(8.3%)に認められた。A保育園ではその後同様の症例は発生しなかった。また、その後の疫学調査においても感染経路の特定にはいたらなかった。
ウイルス検査:2月14〜17日に発症した有症者6名(園児4名、保育園職員2名)と給食従事者4名(無症状)の糞便のウイルス検査を実施した。ノロウイルスとサポウイルスのRT-PCRおよび細菌学的検査ではすべて陰性だった。このため、10名の糞便の電子顕微鏡検索を実施したところ、有症者6名中5名からロタウイルス粒子が検出された。A群ロタウイルス検出用キット(免疫クロマト法、栄研化学)ではすべての検体で陰性であり、デンカ生研R-PHA法によるC群ロタウイルス検出キットで有症者5名中3名が陽性であった。このため、C群ロタウイルスの外殻糖蛋白の遺伝子を検出する目的で、葛谷らの方法1, 2) によりRT-PCR法(Nested PCR)を実施したところ、有症者6名中5名が陽性であった。このPCR産物の塩基配列をダイレクトシークエンス法により決定したところ、患者5名から検出された遺伝子の塩基配列(351bp)はすべて一致していた。この配列についてBlast2による相同性検索を行ったところ、岡山県で1996年に分離されたC群ロタウイルス(AB086967)に最も近く、99%の相同性であった。これらの検査により本集団発生事例はC群ロタウイルス感染によるものと推察された。
なお、給食従事者4名は、すべての検査で陰性であった。
まとめ:県内では2005年10月以降、ノロウイルスを原因とする急性胃腸炎の集団発生が相次いでいたため、当初はノロウイルスの感染を疑って検査を実施した。県内の散発事例の急性胃腸炎を対象とした病原体検査においては、これまでC群ロタウイルスは数年に一度検出される程度であり、今シーズンは検出されておらず、その流行状況は不明である。全国的に見ると、C群ロタウイルスによる急性胃腸炎の集団発生が、少ないながら毎年のように報告され、そのほとんどは4〜6月に発生している。しかし本事例は本年2月の島根県の発生事例(IASR 27: 121-122, 2006およびIDWR: 2006-12)と同様、冬季の発生であり、集団胃腸炎の場合、冬期間もC群ロタウイルス感染を念頭において検査するべきことを示唆している。今後もその発生動向に注目していきたい。
文 献
1) Kuzuya M, et al., J Clin Microbiol 34: 3185-3189, 1996
2)葛谷ら, 感染症学雑誌 77(2): 53-59, 2003
岩手県環境保健研究センター保健科学部
高橋朱実 松舘宏樹 齋藤幸一 藤井伸一郎 佐藤 卓 蛇口哲夫
一関保健所
保健課 吉田まゆみ 佐藤惠美子 小野寺文也
衛生環境課 浅沼千佳子 中村重志 高橋吉春 荒谷克己 加藤陽一 野村暢郎