山口県における2005/06シーズンのインフルエンザの流行は、感染症発生動向調査の定点当たり患者数がピーク時の第3週で39人程度の中規模のものであり、また、3月中旬(第11週)には定点当たり患者数が1以下になり、早い流行の終息と思われた。一方、ウイルスの分離状況は、年末から継続的にAH3型が44株分離されるとともに、年を越してからは、山口県では4年ぶりとなるAH1型が散発的に6株分離されたが、B型の分離は見られなかった。
このような流行状況の中、4月25日になって、県東部の小学校の2学年3クラスにおいて、 110人中40人の児童が発熱、頭痛、咳等のインフルエンザ様症状を示し、22人が欠席したことから、学級閉鎖の措置がとられるとの連絡があり、ウイルス分離同定検査のため、管轄保健所より保護者の了承を得て採取したうがい液8検体が当センターに搬入された。
MDCK細胞に初代接種後4日目には、8検体のうち3検体で、明瞭なCPEが観察され、回収した培養上清はいずれも0.75%モルモット赤血球で 256HAの高いHA価を示したことから、これらの培養上清について、国立感染症研究所分与の2005/06シーズン用抗血清を用いてHI試験を実施した。その結果、3検体すべてが、B/Brisbane/32/2002抗血清(ホモ価 640)に 1,280のHI価を示したが、A/New Caledonia/20/99(H1N1)(同 640)、A/New York/55/2004(H3N2)(同 1,280)およびB/Shanghai(上海)/361/2002(同 640)の各抗血清に対してはいずれも<10のHI価であり、ビクトリア系統のB型インフルエンザウイルスと同定した。
山口県においては、5月1日にも同じく県東部の中学校でインフルエンザ様疾患集団発生により、1学年の学年閉鎖が実施された。また、医療機関でのインフルエンザの定点当たり患者数も4月最終週(第17週)に 0.7人まで上昇したが、幸いなことに大型連休に入ったこともあり、流行は再び終息に向かっているようである。
このたびの事例は、インフルエンザの流行がいったん終息したと思われた後での集団発生事例であり、近年では見られなかった流行のパターンであった。このシーズン後半の流行は、2005/06シーズンの主流株であるAH3型やAH1型によるものではなく、ピーク時に全く分離されなかったB型ウイルスによるものであることが確認された。また、分離株の抗原性は、ここ2年間のB型の主流であった山形系統株ではなく、ビクトリア系統に属する株であったことから、来シーズン(2006/07)のB型インフルエンザの流行の動向に注意する必要があると考えられる。
山口県環境保健研究センター
戸田昌一 岡本玲子 西田知子 中尾利器 吉川正俊 宮村惠宣