カンピロバクターの分類と現状

(Vol.27 p 170-171:2006年7月号)

「カンピロバクター」とは、本来、Campylobacter 属菌の総称的な和名であり、一般的には1982年食中毒菌として指定されたCampylobacter jejuni およびC. coli の2菌種を示すことが多い。他方、ヒトの下痢症患者等から分離される菌種はほとんどC. jejuni であることから、本菌と同義語として取り扱われることもある。また研究者によっては広義的に「Campylobacteria」として、Campylobacter 以外にArcobacter Helicobacter 等を含めることがあり、本稿でもこの視点から述べる。

Campylobacter 属は1963年、M. SebaldとM. Veronにより、当時Vibrio 属に分類されていたV. fetus およびV. bubulus の2菌種をもって初めて提唱された菌属である。1973年には、M. VeronとR. Chatelain がInternational Journal of Systematic Bacteriology(23:111-119)にC. fetus (2亜種1生物型)、C. jejuni C. coli C. sputorum (2亜種)の計4菌種4亜種1生物型に分類し報告した。その後、C. S. Goodwin (1989年)やP. Vandamme(1991年)らにより本菌属を中心とした大幅な改編が行われ、一部のWolinella 属菌のCampylobacter 属への移籍、並びにArcobacter 属、Helicobacter 属が新設された。その背景には1980年代後半以降、16S rRNAの相同性やDNA-DNAハイブリダイゼーション法に基づく分子系統分類学や遺伝子診断技術が進展したことによる。2005年現在、Campylobacter 属菌は、17菌種6亜種3生物型から構成されている(表1)。

他方、Campylobacter は分離される部位からEnteric Campylobacter (EC)とOral Campylobacter (OC)に大別することができる。ECとしては、ヒトの下痢症起因菌として重要であるC. jejuni C. coli C. lari 、2000年以降追加された3菌種等が含まれる。また、C. fetus subsp. fetus は、基礎疾患を有するヒトの血液や、胸膜炎、髄膜炎、膿瘍など「Systemic infection」に関係した臨床材料から分離されることが多いが、ヒトの糞便からの分離例もある。一方、OCにはヒトの口腔内から分離されるC. concisus C. curvus 等が含まれ、歯肉炎など歯科領域の感染症との関連が指摘されている。これらに大別されないものとして、ブタの胃粘膜から分離されたC. hyointestinalis subsp. lawsonii や、多彩な分離部位が報告されているC. sputorum 3生物型菌がある。また、C. jejuni subsp. doylei はECに属すが、ヒトの胃粘膜から分離された例もある。

Arcobacter は、以前“Aerotolerant Campylobacter ”として知られていた低温細菌の一種である。本菌属は、塩水湖やそこに生育している植物の根など環境に分布しているA. nitrofigilis (1991)、動物の腸管に生息しているA. cryaerophilus (1992)、A. butzleri (1992)、A. skirrowii (1992)等の6菌種からなる(表2)。このうち、ヒトへの病原性は不明であるが、食肉やヒトの臨床材料などから比較的良く検出される菌種は、A. butzleri である。

Helicobacter は、1983年J. R. WarrenとB. Marshallが慢性胃炎患者の胃幽門部にS字状の細菌(Gastric Campylobacter -Like Organisum, GCLO)を確認、Campylobacter 属に分類されたが、1989年C. S. Goodwinらにより新しくHelicobacter 属が提唱され、今日に至っている。本属菌は、2005年現在H. pylori をはじめ21菌種から構成されるが、胃粘膜下に生息しているGastric Helicobacter (GH)と腸管や肝臓・胆嚢から分離されるEnterohepatic Helicobacter (EH)に大別される(表2)。2005年現在GHは6菌種、EHは15菌種に達し、候補となる菌が次々と発見されており、今後もさらに菌種が追加されるであろう。ヒトとの関連性の面から考えると、GHでは、H. pylori が最も重要である。EHでは症例数がほとんどなく不明な点も多いが、H. pullorum H. canadensis の下痢症患者からの分離や、H. cinaedi が基礎疾患を有する患者の血液培養から分離された最近の報告もある。Helicobacter 属菌はヒトへの病原性が不明である菌種群が多く、今後、愛玩動物などの衛生管理や動物由来感染症の観点からも注目しておくべきであろう。

東京都健康安全研究センター微生物部 高橋正樹 横山敬子

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