2005年11月15日19時15分に、大阪府A市教育委員会からB小学校において、11月14日(月)に50名程度の児童が発熱・嘔吐・下痢の症状で欠席し、11月15日(火)にも同様の症状で66名欠席しているとの連絡が保健所にあった。感染症・食中毒両面での調査を開始したが、欠席状況のピークは15日で一峰性であることから食中毒の疑いがもたれた。
保健所から搬入された患者便50検体について原因物質の検索を行ったところ、28検体からCampylobacter jejuni (C. jejuni )が検出され、その他の食中毒細菌およびウイルスはすべて陰性であった。患者の共通食は学校給食のみであり、遠足のため11日(金)の給食を食べなかった4年生に有症者がいないことから、11日の給食が原因と断定した。残されていた検食を調べた結果、原材料の鶏肉からはカンピロバクターがMPN で>5,500/100gと非常に高い菌数で検出されたが、調理加工済み食品の検食からはカンピロバクターは検出されなかった。
喫食者416名(児童391名、職員25名)中、有症者は児童のみの133名(発症率32%)で、平均潜伏時間は82.7時間と比較的長かった。主症状は腹痛95名(71%)、頭痛86名(65%)、発熱81名(63%)、下痢76名(57%、うち血便1名のみ)、嘔吐42名(31%)で、入院した児童はなく、比較的軽症であった。
患者から分離された32株のC. jejuni の血清型(Lior、衛生微生物技術協議会カンピロバクター・レファレンスセンターの型別血清)はLIO2(15株)が最も多く、その他はLIO49(5株)、LIO28(4株)等に分かれたが、Pennerの血清型別(デンカ生研)ではすべてA群であった。原材料鶏肉から分離された42株のカンピロバクターも全株C. jejuni で、Liorの型別血清ではLIO2(14株)、UT(11株)、LIO36/28(7株)等に分かれたが、これらの株もPennerの血清型別ではA群であった。また、薬剤感受性試験(NFLX、OFLX、CPFX、NA、EM、TC)を実施した結果、由来にかかわらず全株とも感受性であった。さらに、双方の分離株の中から、Liorの血清型が異なる株を主に選択して(患者由来5株、鶏肉由来12株)、パルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)による遺伝子解析を行ったところ、制限酵素Sma IおよびKpn Iによる切断パターンは鶏肉由来の1株(レーン12)を除いて、すべて同一であった(図)。以上のPFGEの結果等より、著者らは、原材料鶏肉中のカンピロバクターが本食中毒の感染源であると考えた。
A市の小学校の給食は自校方式で実施しており、当日のメニューはワンタンスープ(納入業者によりあらかじめ1cm角に細切された鶏肉使用)、エッグサンド(ポテトサラダ状のもの)、パン、牛乳であった。自校で調理したワンタンスープとエッグサンドについて、その調理行程、作業内容および作業動線を中心に詳細に聞き取り調査を実施した。その結果、ワンタンスープは中心温度92℃まで加熱されており、加熱後すぐに配膳されていること、ワンタンスープよりもエッグサンドの方が先に調理されており、エッグサンドの各材料(じゃがいも、キャベツ、にんじん、卵)は加熱後、和える作業まで約2時間調理室で放冷されていたこと、その間、鶏肉をビニール袋からバットに移し替え、味付けを行い、調理釜まで運んで行ったこと、生鶏肉を扱っていた場所はじゃがいも放冷台に近く、鶏肉が入っていたビニール袋や手袋、鶏肉を入れたバット等がじゃがいも放冷台の横を通過したこと、また、その間大型扇風機でじゃがいもに送風していたこと、が判明した。以上の聞き取り調査より、カンピロバクターの汚染菌数の高い生鶏肉およびその付着物の不適切な取り扱いにより、じゃがいもを介してエッグサンドが二次的に汚染され、本食中毒が発生したと推察された。
大阪府立公衆衛生研究所
久米田裕子 田口真澄 川津健太郎 河合高生 神吉政史 浅尾 努 濱野米一
勢戸和子 山崎 渉 河原隆二 依田知子 石橋正憲 塚本定三
大阪府守口保健所 堤 千津 足立和人