高齢者福祉施設におけるヒトメタニューモウイルス集団感染事例−福岡県

(Vol.27 p 178-179:2006年7月号)

福岡県京築保健所管内の高齢者福祉施設(入所者定員60名、職員24名)で、2006(平成18)年3月下旬〜4月中旬にかけて、咳、発熱を主徴とする呼吸器感染症が多発し、発症者11名にヒトメタニューモウイルス(hMPV)検査を実施したところ7名から検出されたので、その概要を報告する。

4月6日(木)夕刻、当該施設から当所に、入所者18名が呼吸器感染症状を呈し、うち8名が入院、1名が死亡したとの報告があった。症状の内訳は、咳18名、発熱(37℃以上)17名、喘鳴6名、肺炎4名であった。血液検査では特異的な変化はなく、白血球数やCRP値の著明な増加は見られなかった。これらの所見や主治医の意見等から、ウイルス性、特にRSウイルス(RSV)による呼吸器感染症が最も疑われた。なお、死亡者1名(86歳、3日発症、5日死亡)は、右全肺野および左下肺野に肺炎像が認められた。

症例定義を「当該施設の入所者および職員で、発熱(37℃以上)または咳か喘鳴があり、感染が疑われる者」として調べてみると、3月26日に初発例が認められ、以後の発症者数の推移は図1のとおりであった。4月6日から居室分離等の感染拡大予防策を図るとともに、新たな発症者の早期発見と医療の確保を行い、11日には施設を有症ゾーンと健康ゾーンに分離した。12日以降、新たな発症者はほとんど認められなくなった。

RSVに加えhMPVも疑われたため、11日に有症者10名の咽頭ぬぐい液からのウイルス分離とmultiplex RT-PCRを試みた。ウイルス分離にはFL、HEp-2、RD-18S、Vero、LLC-MK2、MRC-5、MDCKの7種類の細胞を用いた。multiplex RT-PCRはS. Bellau-Pujol 1)らの方法を用い、RSV、hMPVを含む12種類の病原体を対象に検査を実施した。その結果、multiplex RT-PCRで10名中6名よりhMPVが疑われるバンドが検出され、塩基配列を決定できた5名の遺伝子はhMPVと同定され、その塩基配列は100%一致していた。さらに分子系統樹解析により、遺伝子型B1型と決定した。細胞培養はすべて陰性だった。

hMPVが集団感染に関与している可能性が示唆されたため、関連文献を収集するとともに、あらためてウイルス性呼吸器感染症としての対応を強化した。19日には、回復者を「発症から2週間経過し、かつ3日以上症状がなく、医師が認めた者」と定め、健康ゾーンへ転出させた。5月2日、最後までウイルス排泄が疑われていたhMPV検出者1名の再検査で陰性が確認されたため、ゾーン分離を中止し、すべての入所者に対する看護・介護等を通常対応とした。以後も新たな発症者は認められず、有症者も通年の数に戻ったため、5月11日、本事例は終息したと判断した。

3月26日〜5月11日までの観察期間中、発症者は入所者41名、職員7名の計48名に及び、2名が肺炎で死亡した。なお、2例目の死亡者(87歳、11日発症、19日死亡)の喀痰からもhMPVが検出され、遺伝子型も他の検出者と同じB1型だった。発症者の主な症状等は、咳83%、発熱(37℃以上)75%、喘鳴13%で、肺炎は13%にみられた(表1)。

hMPV感染症の潜伏期間やウイルス排泄期間については、関連文献から潜伏期間を5日、排泄期間を発症後2週間と推定し、対応を行った。実際、予防策の徹底を図った4月6日から6日目にあたる12日以降、新たな発症者はほとんど認められなくなっており、また、発症から2週間経過した回復者を健康ゾーンに戻しても同様であった。

発症者は高齢(平均年齢88歳)であるため、多くは基礎疾患を持ち、易感染性の状態でもあった。さらに、当該施設では発熱、咳、喘鳴を呈する者が通年にわたり認められる上に、入院も月に数名認められ、今回も嚥下性肺炎、尿路感染症増悪や胆嚢炎による入院者が出るなど、hMPV感染が発症、入院、死亡の直接の原因であるかを判断することは困難であった。今後、高齢者福祉施設においては、インフルエンザウイルスやノロウイルスと同様、hMPVについても集団感染対策に注意を払う必要があると思われる。

 文 献
1)S. Bellau-Pujol et al., J Virol Methods 126: 53-63, 2005

福岡県京築保健福祉環境事務所(福岡県京築保健所)
白石博昭 豊村研吾 平 泰子 宮川春美 三浦久吉 田中浩二 山野眞由美
守 真奈美 都留陽子
福岡県保健環境研究所 千々和勝己 江藤良樹 石橋哲也 世良暢之 吉村健清
福岡県保健福祉部健康対策課 佐野 正 中山 宏

今月の表紙へ戻る


IASRのホームページに戻る
Return to the IASR HomePage(English)



ホームへ戻る