1998年の米国予防接種諮問委員会(ACIP)によると、定期接種としては、麻疹・風疹・流行性耳下腺炎(ムンプス)混合ワクチン(MMR)は1回目接種が生後12〜15カ月、2回目接種が4〜6歳とされている。さらに大学生などでは、2回接種が推奨されてきた。しかし一方では、医療従事者を含むすべての層において、ムンプスワクチンの1回接種歴があれば、記録上免疫を保有するとされてきた。また、米国でのワクチン市販後調査により、耳下腺腫脹を伴う臨床的ムンプスの予防効果は、1回接種で78〜91%と示された。
しかし、1980年代後半〜1990年代前半にかけ、95%以上のワクチン接種率を有する学校において流行がみられ、学校の場合には1回接種では不十分であることが示唆された。1989年に学童と大学生に対する2回接種が導入され、ムンプスの流行は減少した。1988〜1989年におけるカンザス州の1高校での集団発生では、1回接種では2回接種に比べ、罹患リスクが5倍になることが示された。英国では、米国と同様にJeryl Lynn株あるいはその由来株を含むMMRワクチンを使用しているが、そこでの研究では1回接種の有効率は64%、2回接種では88%であった。フィンランドでは2回接種率を高いレベルで維持することにより、ムンプスの排除(elimination)が宣言されるに至った。
病院や長期ケア施設でのムンプスの集団発生において、感染制御策の失敗から院内・施設内での感染伝播がみられている。また、米国では2006年1月1日〜5月2日に、11の州から2,597のムンプス症例が報告されている。このことから、ACIPは2006年5月に、ムンプスワクチンの接種に関する指針を更新した。主な変更点は以下の通りである。
暫定的に免疫を保有するとみなすための基準
・以下の場合には、適切にワクチン接種されていると記録されるには、生ワクチンの1回接種でなく2回接種が必要である。
1)学童(幼稚園から第12学年まで)
2)ハイリスクの成人(医療従事者、海外旅行者、高等学校を終えてからの教育機関の学生)
医療従事者に対する定期接種
・1957年以降に生まれ、他に免疫を保有することの証拠がない人:生ワクチンの2回接種。
・1957年以前に生まれ、他に免疫を保有することの証拠がない人:生ワクチンの1回接種を勧めることを考慮。
集団発生の状況下
・1〜4歳の小児、低リスクの成人:集団発生の影響を受けるのであれば、生ワクチンの2回目接種を考慮(接種間隔は最短28日)。
・医療従事者で1957年より前に生まれ、他に免疫を保有することの証拠がない人:生ワク チンの2回接種を勧めることを積極的に考慮。
(CDC, MMWR, 55, No.22, 629-630, 2006)